- 2025/12/23 掲載
PayPayあるのに…なぜ、Suicaに“QR決済”? JR東に「teppay」が必要だった本当の理由(2/2)
Suica・PASMOが抱える「致命的な弱点」を解消したteppay
SuicaやPASMOが長年抱え続け、多くのユーザーから「なんとかしてくれ」と要望がありながらも、クリアできていなかったある致命的な弱点がある。それが、「チャージ上限2万円」という壁だ。鉄道に乗るには2万円という金額はけっこう大きな額で、SuicaやPASMO(を含めた交通系ICカード)を利用できるエリアを移動するだけで2万円を支払うということは基本的にはないものの(あるとしたら「タッチでGo!新幹線」を使用する場合だろう)、そうではない取引をする(たとえば、家電量販店で大型家電を買う)場合には足りない額だと言える。
SuicaやPASMOで大きな額の支払いをしたいという声は大きく、その解決策を示したのが「teppay」だ。Suica本体のシステム改修を待たずとも、アプリ上のQR決済を使うことで、2万円の上限を突破できる。
さらに「teppay」の加盟店だけではなく、JCBが提供する統一コード決済スキームの「Smart Code」が使用できる全国160万カ所で利用することが可能だ。
機能面でも、「PayPay」などの先行するコード決済サービスを強く意識している。銀行口座やATM(現金のみ)からのチャージに対応し、ビューカードでの入金が可能となっている。ユーザー同士での送金や、Suica・PASMOへのチャージも可能になるなど、「PayPay」でできることと同等のことができる。また、インターネットで使えるプリペイドカードの発行や、特定地域限定の残高発行も可能だ。
つまり、キャッシュレスを交通系アプリにまとめる、ということが「teppay」でできるのだ。
PayPayより便利?「利用者目線」で検証するteppayの実力
私たちが知りたいのは、「teppayがあれば、PayPayやd払いなど他のアプリはもういらないの?」ということだろう。JR東日本が行った「キャッシュレス決済に関する調査」では、1都3県の89.1%の人がキャッシュレスの多様化・複雑化に何らかの疲れやストレスを感じており、「決済手段をまとめたい」というニーズがある。
また、初めて利用したキャッシュレスサービスランキングでは、Suica・PASMOとが1位となっている。この強みを生かしつつ、ニーズに対応できるアプリとして「teppay」が開発された側面があるとも言える。
だが、利用者視点で見ると「teppay」は本当に便利なのだろうか。
teppayが採用する「Smart Code」は全国160万箇所で使えるが、「小規模なお店」での決済において決定的な差がある。ライバルのPayPayは、加盟店を拡大する際、手数料の安さや導入コストの安さを武器に拡大を重ねてきた。対するteppayが採用したJCB系列のSmart Code陣営に、同じことはできていない。
結局のところ、「PayPayでしか支払えないお店」は残るため、私たちは今後もPayPayとteppayの使い分けを強いられる可能性が高いのだ。
ここに、「供給する側の事情」が見え隠れする。クレジットカードや、すでに普及している他社のコード決済を使えば済む場面でも、JR東日本としては「自社のシステムの中でさまざまな決済手段を提供できるようにしたい」のだ。
しかし、それを受け止める「供給される側(ユーザー)」の本音はどうだろう。「また新しいものに対応しなくてはならないのか」というのが正直なところではないだろうか。
「teppay」さらには「Smart Code」陣営は、PayPayやd払いなどの強力なライバルに勝たなければならない。ここをクリアしなければ、キャッシュレス疲れを解消するために開発されたアプリが、逆にユーザーの負担を増やす結果になりかねない。
ユーザーが「Suicaに求めていたもの」は実現できるのか?
これだけの背景がある「teppay」だが、実際にサービスが始まるのはまだ先だ。JR東日本の発表では、モバイルSuicaでの提供開始は2026年秋、モバイルPASMOでは2027年春とされている。利用者視点で見ると、「けっこう先」の予定だ。この期間を待たずに別の決済アプリを利用することも十分考えられる。
また、関西ではすでにJR西日本のコード決済アプリ「Wesmo!」が存在している(ただし、こちらはモバイルICOCAとは一体となっていない)。
結局のところ、「teppay」は誰のためのものなのか。それは、既存のモバイルSuica・モバイルPASMOを利用しているユーザーだ。おそらく利用者は首都圏が中心となるだろう。
JR東日本は今回の発表に合わせて、将来的にはSuicaの上限額を2万円からもっと大きな額に対応できるようにするとも表明している。しかし、こちらはハードウェア上で対応しなければならないことも多く、歴史ある交通系ICカードのシステムでは短期間でどうにかできない状況にある。だからこそ、まずはアプリ上で対応できる「teppay」が登場した形だ。
最後に改めて考えたい。私たちがSuicaに求めていたのは、レジでわざわざQRコードを表示する機能だっただろうか?「Suicaそのもの」で大きな額の買い物をしたり、それでポイントを貯めたりできることが求められているのではないだろうか?
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