反響の大きかった記事

――創刊号で最も反響の大きかった記事ってどれですか？
赤田■　一番反響をもらったのは『VANの神話』という連載ですかね

団塊パンチ編集長 赤田祐一氏

――あれは驚きました。『ポパイ』『ブルータス』の花形編集スタッフから、今は60歳になって土木作業員をされているという元VANの社員の方がとりあげられていて。
赤田■　以前にポパイの本（『証言構成「ポパイ」の時代』太田出版）を書いたときに、その中に出てくる人たちが口をそろえてVANの話をするんですよ。どうもVANは独特な世界観のあった企業だったらしいと興味を持つようになって、元社員の方に話を聞いたりするようになったんです。これまでVANについて語られてきたものってわりとアイビー・マニアの“通史”なんですよね。でも、実際はもっとリアルなものがあるだろうと思っていたんですよ。

――あと、川添象郎*2さんの自叙伝にも驚きました。あまり表に出てくる方ではないと思っていたので。
赤田■　あれも反響は大きかったですね。あの人はYMOのエグゼクティブ・プロデューサーなんですよ。早くYMOの回にならないか、僕自身楽しみでしょうがないですよ。川添さんはまた音楽プロデューサーとして復活するそうですよ。しかもヒップホップで。すごいよね。

カルチャー誌に冬の時代の到来

――赤田さんは『QJ』の出版を巡って太田出版に移籍するなど、常に働く場所が変わっていきますよね。
赤田■　そうですね、ぶつかってしまうことが多かったですね。

――一般的には、常にやりたいことをやるサブカルチャー系編集者というイメージなんだと思いますが、『磯野家の謎』にしろ、『QJ』にしろ数字で結果を出しているわけじゃないですか。
赤田■　まあ『QJ』はそれなりにですけど。

――出版のプランナーとしての評価と、社内の理解があってもいいんじゃないかと思うんですけど。
赤田■　やっぱり好きな事、関心があることだけをやってきてますから。格好つけるわけじゃないですけど、売れたものも結果的に売れたというか、2、3万売れればいいなと思ってたら100万売れてしまったという感じです。逆に、売ろうと狙ったもので、売れた本はないですね。

――もし次に『LEON』（主婦と生活社）の編集長をやってくれっていわれたらやります？
赤田■　できないんじゃないかなあ。ブルガリとかっていわれてもよく知らないし。お金の匂いがする雑誌は向いてないですよ。きっと。

――雑誌の現状を見るとカルチャー誌の世界も、タイアップ、広告ありきでないと成立しない状況ですよね。例えば『TITLe』（文藝春秋）や『relax』（マガジンハウス）なんかは雑誌丸ごとタイアップだったり。
赤田■　全世界的な傾向かもしれません。アメリカでも日本と同じでタイアップが多いです。それに日本の『Smart』（宝島社）みたいな商品がたくさん載っているものが増えてますね。カルチャー誌は特に冬の時代ですね、種類も少なくなっている気がします。

――その冬の時代に雑誌編集者は何をつくっていけばいいのでしょうか?
赤田■　いろいろ考えてはいるんだけど、答えはすぐに出ないですね。もう大部数の雑誌って出てこないんでしょうし、限られた年代、限られた層にきちんとした内容のものを届けられたらいいかなと。僕の場合はそういう考え方ですね。それ以上の野望はないし。

――最後に『団塊パンチ』のブログについてお聞かせください。
赤田■　あまり更新されてないんですけど、結構たくさん立ち寄ってくれてるんですよ。

――赤田さんが本格的にブログをはじめたら、かなり注目されますよ。
赤田■　これからはもっとマメに更新しますよ。フォトログになると思いますけど（笑）。

(取材・構成＝速水健朗）


*1 アップルハウス。1960年代末に渋谷・南平台あったビートルズファンの溜まり場。当時の家で少年・家出少女が集まり、コミューン化した場所。

*2 川添象郎。1941年生まれ。飯倉のイタリアン・レストラン“キャンティ”の創業者で、旧華族の川添浩史と、国際的に活躍したピアニスト原智恵子の間に生まれる。1970年代末に村井邦彦とともにアルファレコードを設立。YMOを見出し、世界デビューに貢献した。風吹ジュンとの結婚歴もある。