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  • 2022/06/08 掲載

シロカの家電はなぜ人気? ファンが増える“顧客体験”の秘訣とは

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家電メーカーのシロカ(siroca)は、ホームベーカリーや電気圧力鍋など、ヒット商品を次々と生み出している。事業参入から約10年、従業員数は約100名と企業としては決して大きくないが、同社製品のファンも多い。こうした躍進の裏には、同社が重点的に取り組む「顧客体験(CX)」の改善が大きく関係している。では、どのようにして顧客体験の向上を実現しているのか。「カスタマーサポート」の秘密を、シロカ 社長補佐の長島 利通氏と、投資家の川田 尚吾氏が明らかにする。

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重点的に取り組む「顧客体験(CX)」の改善はどのような効果を生み出し、何に取り組んでいるのか
(Photo/Getty Images)

なぜメーカーは「顧客体験」向上が難しいのか?

 シロカ(siroca)は、調理家電や生活家電、季節家電といった「小型家電」の企画・開発・製造・販売を行っている人気家電メーカーだ。創業は2000年で、本格的に家電に取り組み始めたのは2010年からになる。2020年には株主体制と経営体制を刷新し、収益性の改善や商品力の強化、顧客満足度の向上に取り組んでいる。

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シロカの主な製品。ホームベーカリー、全自動コーヒーメーカー、電気圧力鍋などのヒット商品を次々と生み出している

 さらに広告宣伝費をほとんどかけず、リーズナブルな販売価格を実現していることでも知られている。一方で重視しているのが顧客満足度(CS)だ。従業員数は約100名だが、そのうちの10名がカスタマーサポート部門に所属し、日々、顧客体験(CX)向上に取り組んでいる。

 しかし、一般的にメーカーはユーザーとの間に距離があり、顧客体験を向上させるのが難しい。メーカーが開発・製造した製品は実際に利用されて初めて価値を発揮するため、製品がメーカーの手から離れると顧客との接点は意外と少ない。

 それを前提に、マーケティングや商品企画、経営改善活動に携わるシロカ社長補佐の長島 利通氏は同社のカスタマーサポートの考え方を次のように説明する。

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シロカ
社長補佐
長島 利通氏

「我々の調理家電などの製品も、買った瞬間より買った後の方が価値は高まります。1年間使っていただければ、肉ジャガもカレーも参鶏湯(サムゲタン)も作れるようになり、経験やノウハウがたまって製品への思いが高まるのです。そこをいかに支援していくかが、我々の重要なテーマでありチャレンジだと考えています」(長島氏)

 では同社は、具体的にどのような方法でカスタマーサポートに取り組み、メーカーでは難しいとされる顧客体験や顧客満足度の向上を実現しているのだろうか。

ネット業界も驚きの「問い合わせ」に関する数字とは?

 シロカのカスタマーサポートは、購入前の問い合わせの多さが特徴だ。購入後の修理や部品の問い合わせが7割に対して、「どの製品を購入すべきか分からない」といった購入前の問い合わせが3割近くあるという。長年、ネットビジネスに関わり、ディー・エヌ・エーの共同創業者でもある投資家の川田 尚吾氏は、「この数字はネット業界的には驚きです」と述べる。

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投資家
川田 尚吾氏

「3割が購入前ということは、カスタマーサポートが営業的もしくはマーケティング的な役割も担っているということです。それだけの業務を10名のカスタマーサポートで担当するのは容易ではないと感じます」(川田氏)

 なお、シロカのサポート部門では製品ごとに担当を分けていない。一人ひとりの担当者が、キッチン家電や生活家電、季節家電など幅広い商材について知識を習得し、問い合わせに対応しているということだ。

「FAQ」項目を4倍に拡充、電話問い合わせは27%減

 シロカでは2020年に経営体制を刷新し、さまざまな改善活動を開始した。そこで最初に目についたのが、放棄率の高さだった。これは、サポートに関する問い合わせの電話を受電できなかった割合のことだ、

「従来は、放棄率をサポート部門の課題ととらえていました。しかし、改めて問い合わせの内容を分析すると、修理から部品、購入、レシピなど多岐にわたることが分かり、全社で取り組むべきだと認識したのです。そこで、改めて全社員で放棄率を下げる活動を開始しました」(長島氏)

 その取り組みの1つがFAQツール「Helpfeel」によるFAQの拡充だった。従来はFAQが不十分で、必要な情報が整備されていなかったのだ。

「お客さまにとって電話での問い合わせは、色々と調べた後に行う最後の手段です。ところが、従来はサイトを見ても十分なFAQがありませんでした。これでは、電話する以外にありません。そこで、Helpfeelを導入してFAQを拡充することにしたのです」(長島氏)

 そして、同社は200項目だったFAQを800項目に拡充。その結果、電話での問い合わせは27.2%減ったという。

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Helpfeelの導入によって電話での問い合わせは27.2%減らすことに成功

 家電メーカーへの問い合わせには波がある。メディアなどで取り上げられれば瞬間的に問い合わせが増えるし、扇風機やヒーターのような季節商品が購入されれば箱から出す時に「部品がない」「使い方を忘れた」といった問い合わせが増える。川田氏は、こうした観点からもFAQの重要性を次のように強調する。

「たとえば、メディアに露出して問い合わせが増えた結果、通常の問い合わせがつながらなくなったら問題です。したがって、解決できる問題はオンラインのFAQで解決可能にし、問い合わせを可能なかぎりFAQで吸収できるようにしておくことが重要だと思います」(川田氏)

カスタマーサポートが劇的進化、営業やマーケの役割も担う

 Helpfeelを導入すると、ユーザーの検索や閲覧ログも取得できる。その結果、ログと電話での問い合わせ内容を合わせた分析も可能になった。

「たとえば、足りていない情報が分かったり、お客さまの電話での聞き方から検索用キーワードを設定したりできるようになりました。現在は毎月レビューを実施し、FAQを充実させています。また、FAQが増えるとどうしても使いにくくなりますが、Helpfeelは検索性が高いので、数の多さを感じさせないのも助かっています」(長島氏)

 分析結果は商品開発・企画やマーケティング部門のメンバーとも共有・活用されている。たとえば、分析結果を基に、マーケティング担当者が情報の伝え方を変えたり、販促物を見直したりといったことにつなげているという。川田氏は、こうしたFAQの活用について次のように述べる。

「Helpfeelのメリットとして、カスタマーサポートの工数を減らすのは入り口にすぎません。むしろ、マーケティング的にとても役立ちます。商品開発や商品企画もそうですし、購入前の問い合わせへの対応、それにはある意味で『商談』の意味も含まれていますが、そうした営業的な面にまで貢献できるのです」(川田氏)

「顧客との交流の場」や「取扱説明書の進化形」にも挑戦

 川田氏は「私は、顧客が商品に愛着を感じた時に寄り添えることがカスタマーサポートのキモだと考えています」と述べる。

 ただし現実には、メーカーがそれを実践することは難しい。顧客が商品に愛着を感じた瞬間をリアルタイムにとらえることは困難だからだ。この点について、長島氏は「それはこれからの課題です」と、今後の展開を次のように説明する。

「メーカーにとって、お客さまと継続的な接点を持つことは困難です。今のところは、カスタマーサポートにおける電話とメールくらいしか接点はありません。しかし今後は、お客さまとつながって定期的にコミュニケーションができるオンラインの場を作りたいと考えています。それによって、よりお客さまに寄り添ったサポートが可能になると考えています」(長島氏)

 また、同社はFAQページから製品の取扱説明書をPDFファイルでダウンロードできるようにしている。これは、特に季節物家電の場合、出し入れの際に取扱説明書を紛失する顧客が非常に多いからだ。ただ同社では、この取扱説明書についても、新たな可能性を検討しているという。

「PDFファイルは紙で作った取扱説明書そのものですから、紙の検索性に戻ってしまいます。そもそも、PDFで紙の説明書を利用すること自体、20世紀的だと思います。まだ具体的にはなっていませんが、Helpfeelの技術を活用することで、取扱説明書をさらに進化させられるのではないかと考えています」(長島氏)

 企業と顧客の関係が変わりつつあるいま、カスタマーサポートの重要性は、今後、あらゆる企業で増していくだろう。だからこそ、FAQを強化して電話での問い合わせを減らし、顧客接点の拡充、顧客体験の向上を図ろうとしているシロカの取り組みは、多くの企業の参考になるのでないだろうか。

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