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2017年09月26日

自動車部品大手のボッシュがなぜ農業? AIで病害予測し錦江町のスマート農業を加速

2017年9月4日、農業×IoTの世界において歴史的な調印が、鹿児島県錦江町で行なわれた。ボッシュと言えば、クルマ好きなら知らない人はいないだろう。2016年度の売上は約9兆円にも上るグローバル企業だ。しかし、その技術を活かした農業とIoT、さらにAIを連携させる新プロジェクトは、実は日本から始まっていた。なぜボッシュが農業なのか? 鹿児島県 錦江町の福岡園芸と提携した狙いとは? 両社のキーパーソンに話を聞いた。

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調印に臨んだ錦江町 副町長の宮下 和久氏(写真右)、福岡園芸の福岡 忠司氏(同中央)、ボッシュの矢岡 明倫氏(同左)

世界で進む食品消費傾向の変化に対して、日本は有利な立ち位置にある

 今回調印に至ったのは、ボッシュの園芸用IoTプロダクトである「Plantect」を、鹿児島県錦江町がこの春創設した『町の未来づくり専門集団』である錦江町まち・ひとMIRAI創生協議会が仲介役となり、同町にトマト栽培用ハウスを持つ福岡園芸が実証実験として取り入れるという官民合同プロジェクトだ。

 ボッシュといえば、自動車用の電子制御ブレーキやワイパーなどで有名な世界的企業だ。2016年度の売上は約9兆円にも上る。しかし、自動車業界だけにビジネスをゆだねることにリスクも感じ始めていると、ボッシュの矢岡 明倫氏は説明する。

「ヨーロッパの一部の国、アメリカの一部の州では、ある程度の期限を区切ってガソリン車を規制する方針を打ち出すなど、自動車業界は激変の時代を迎えています。こうした背景があり、ボッシュでもこれまで培ってきた技術を生かした新しい取り組みを世界各国で始めています。その中の1つ、日本発のプロジェクトが、『施設園芸向けIoT』です」(矢岡氏)

 施設園芸とは、わかりやすく言えばハウス栽培のこと。一次産業の衰退が叫ばれる日本で、なぜ農業用IoTに目をつけたのか。その質問に矢岡氏は次のように答えた。

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福岡園芸が錦江町に持つトマト栽培用ハウスで調印式は行われた


「日本だけを見ていると人口減少が加速していますが、全世界で見れば人口は増加の一途をたどっており、むしろ食糧難の未来が語られています。それと同時に、安心して口にできる高付加価値食品へのニーズも高まっています。日本は高い品質の農作物を作る技術を持ち、これから大消費地となるアジアに位置している『有利な国』なんですよ」(矢岡氏)

地方の小規模農園でも取り入れやすい初期費用ゼロのサービス型IoT

 ボッシュが自動車部品で培った技術を、施設園芸向けIoTとして提供するソリューションが「Plantect」だ。温度湿度センサー、CO2センサー、日照センサー、それに通信機を加えた4機で基本セットになっている。センサーと通信機の間はLoRaで結ばれ、通信機はそれらのデータをLTE通信でクラウド上のバックエンドシステムへ送信する。

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写真左からデータ閲覧用のスマートフォン、温度湿度センサー、CO2センサー、日照センサー、通信機


 センサー類はすべて乾電池で動作し、100ボルトの電源が必要なのは通信機のみ。一般的に、暖房設備などのためにハウス内のどこかには100ボルト電源が用意されているので、通信機はそこに設置すれば問題ない。センサーと通信機は数百メートル離れても安定した通信が可能なので、実質的にはハウス内の好きな場所に設置できると言っていい。

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センサーは乾電池で駆動し通信機とはLoRaで通信するのでハウス内の好きな場所に設置可能


 工夫が凝らされているのは、センサー類だけではない。収集したデータをクラウド上に蓄積し、その情報を元にAIが「病害予測」を行う点が画期的だ。

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(クリックで拡大)

蓄積されたデータはスマートフォン、PCから閲覧可能


「共同開発に参加した100棟以上の実績データをAIが分析し、病害の発生を予測します。農業用IoT製品やサービスはいま次々に開発されていますが、AI を活用した病害予測の仕組みを持つのは、国内ではPlantectだけです。トマト栽培においては、92%の精度で予測可能です」(矢岡氏)

 病害予測は、これまでは農家の”勘”と”経験”に頼るしかなかった。実際にハウスに足を運び、トマトの生育状況を観つつ、過去の経験に頼って温湿度管理をしてきた。人間では24時間ハウスを見守ることはできないが、IoTなら継続した監視とデータ蓄積が可能。さらに、農薬散布や病害発生の記録もつけられるようになっており、自社農園の運営記録として先人の勘と経験を可視化やノウハウの情報化ができるのではないか。今回のプロジェクトで、Plantectを導入した福岡園芸の福岡 忠司氏はそう期待する。

「スマート農業に興味を持ちいくつか調べたものの、いずでも初期投資がハードルとなっていました。その点ボッシュのPlantectは初期費用がなく、機器代金を含んだサービスとして利用できるので始める抵抗感がありませんでした。病害予測、収量アップなどを目指して、データを活かした農業のあり方を模索していきます」(福岡氏)

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福岡園芸 社長
福岡 忠司氏


 福岡氏が言う通り、面積の広い農業においては、機器代金などの初期費用がIoTスタートの壁となる場合が多い。Plantectは通信料やクラウドサービス利用料を含む月額制サービスとして提供され、初期費用も不要だ。これも、日本に多い小規模農家をターゲットにサービスを考えてたどりついた提供形態だった。

錦江町は一次産業×IoTの実証実験の好適地

 それにしても、なぜボッシュが錦江町で官民合同プロジェクトに参加することになったのか。なぜ九州、なぜ錦江町なのだろうか。

「正直に言って、最初に話を聞いたときにはここまで協業が進むとは考えていませんでした。しかしどうせやるならサテライトオフィスに頻繁に足を運び、福岡園芸さんや錦江町まち・ひと・MIRAI創生協議会さんと緊密に連携して成果を出し、九州にPlantectを広める足がかりにしたいですね」(矢岡氏)

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ボッシュ
FUJI プロジェクト
矢岡 明倫氏


 施設園芸の中ではトマトがもっとも生産量が多い。中でも熊本県が国内最大の生産地だという。錦江町での取り組みを成功させ、自社製品を九州に広めて行く出発点としたいところだろう。また、本州で開発した製品であり、九州の実際の生産現場からのデータを持っていないという背景もある。福岡園芸との協業により九州でのデータを得ることで、病害予測のAI精度も高めていきたいと矢岡氏は語った。

 こうした実証実験の場として見ると、錦江町の魅力は際立っている。鹿児島県南東の大隅半島に位置する錦江町は、それほど広くない地域に、海から標高800メートルの山間部までさまざまな自然環境が混在している。漁業、農業、林業など一次産業全般のIT化について実証実験を行える環境が、近隣に揃っているのだ。鹿児島県南部ということで、桜島噴火の影響を気にする人もいるかもしれないが、錦江町まで噴煙が届くような爆発的噴火はほとんどなく、農業や漁業に影響はないという。

 もともと恵まれた気候を活かして多様な農産品を産出していたが、温暖化の影響からか、近年ではマンゴーなど南方の植物も栽培できるようになった。これからアジアへの進出を考える企業にとっては、現地に近い気候でなおかつ国内でIoTの実験をできる場としても、錦江町のサテライトオフィスは魅力的に映るに違いない。実証実験だけでなく、実際にアジアに展開していく際の拠点としても使える立地だ。

 今回の提携で、官民一体となって企業と連携し、地域課題解消を行おうとする錦江町の姿勢も見えてきた。農家、地域の協力を得られる錦江町でボッシュがどのような成果を上げられるのか。当事者である福岡園芸だけではなく、広く注目を集めるプロジェクトになりそうだ。

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