デメリット(1):業務の可視化をしないと、生産性低下を招く
基本的にはメリットが多いワークシェアリングだが、デメリットもある。それは「引き継ぎがしっかり行われないと余計な時間が増え、結果的に生産性の低下を招く」ということだ。そのため、どんな業務がどのように行われているかを誰が見ても分かるように可視化しておくことが非常に大切である。
マニュアル作成などは手間に感じるかもしれないが、内容を整理することで自分自身の業務理解も深まるだけでなく、改善点なども見つかる。業務の可視化はワークシェアリングをする上ではとても大事な点なので実施することをおすすめする。
ただし、高度な機密情報を取り扱っているため業務の分散が難しいなどの場合も考えられる。その場合は、システムを導入するなどして、その業務自体の効率化を図るなど別の視点で考え、社員の負担を減らすと良いだろう。
デメリット(2):業務のシェアのみ行うと、給与ダウンにつながるリスクがある
ワークシェアリングは「これまで一人で担当していた仕事を複数人で分けることによって、一人にかかる負担を減らそう」というものなので、社員の中には業務量が減ると給与ダウンにつながるリスクがあると不安に思う人も多いだろう。
ネットエイジアの調査では、「給料が現在の60%になる代わりに、労働時間が現在の60%になるという案についてどう思うか」と聞くと、「賛成」はわずか8.1%、「どちらとも言えない」は46.4%、「反対」は45.5%だった。
企業としてはワークシェアリング導入の際に社員の副業・兼業を推進したり、既存の業務量は変えず、シェアする業務を増やすことで給与維持を図るなど不安を払拭することも大切だ。
とはいえ、長時間労働など企業としての課題がある場合は、業務内容を見直したり、適正な給与制度をつくるという点でもワークシェアリングをすべきだと私は考えている。
また、会社の経営状況によっては、給与削減が社員にとって必ずしもマイナスばかりではない例もある。
2000年ごろから半導体業界が不況に見舞われ、その煽りを受け売上が激減したトーワは、ワークシェアリングを実施し、従業員の稼働日を週4日にすることで雇用の維持を図った。従業員の給与は下がったが、「雇用が維持されて助かった」という人もいたようだ。また、企業側も、景気が回復した際の受注増に備えて、人員を確保できるメリットがあると語っている。
ワークシェアリングは導入時の会社の経営状況、社員の勤務状況などを見て段階的に導入する方が良いだろう。
ワークシェアリングに必要な「6つの労務整備」
ワークシェアリングの体制を導入する上で、いくつか整えておくべき労務環境がある。このベースを整えることで、安定した組織づくりへつながる。
ワークシェアリングに必要な6つの労務整備
(1)情報を常に可視化・蓄積
他のメンバーがすぐにフォローできるように、常に情報を一元管理しておくことが大切である。
(2)ツール整備
下記2つは導入することをおすすめしている。
- ・気軽にテキストコミュニケーションができるチャットツール
- ・オンライン会議や面談のためのビデオコミュニケーションツール
(3)働く環境の整備
テレワークでは自宅で仕事が問題なくできるように、インターネット環境を整えたり、整った姿勢で仕事ができるような机と椅子を用意したり、安定して働ける環境を確保することがポイントだ。
(4)セキュリティ強化
業務の可視化はしつつ、権限レベルは役割に応じて設定し、情報セキュリティ体制は強化しよう。特に、カフェなどの公共の場で仕事をする時は、オープンWi-Fiは使わないことや情報漏えいに気を付けることなど、細心の注意を払う必要がある。社員への教育も兼ねてこの点は周知すると良いだろう。
(5)スケジュール共有
テレワークの場合、「今何をしているか」が分からない。スケジュールをお互いに共有し、業務状況などをシェアしよう。この時に、「副業」や「仕事以外のプライベート」も尊重する関係性を築くことも大切だ。当社では、「美容院」「友人とランチ」などというプライベートもカレンダーに記載している。
(6)無駄な会議削減
ワークシェアリングを導入すると業務の可視化ができるので、「状況を共有するため」の会議などは不要な会議になる。これを機に本当に必要な会議か精査できるだろう。
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