- 2026/10/22 06:10 掲載
AIエージェント導入で「RPAを捨てる」は大間違い?失敗しないための「4つの視点」(2/2)
【ガートナー解説】RPAからの「置き換え」は危険?
受け皿になるのがノーコード・エージェント・ビルダー(NCAB)である。コードを書かずに、AIエージェントを開発、公開、管理できる統合環境を提供するプロダクトだ。設計から実行までを1つのSaaSの中で完結させる。ビジネスユーザーが自分で環境やパイプラインを構築する必要はない。NCABが登場して3年ほど、市場としてはまだ新しい。ここで押さえておきたいのは、既存の自動化を捨てる必要はないという点だ。多くの企業がRPAなどを使い、文書処理や承認ワークフローをすでに自動化しており、それらは今も有効に機能している。
「エージェントに置き換えるべきかと聞かれたら、私はこう尋ね返します。既存の自動化は不具合を抱えているのでしょうか。コストが高すぎるのでしょうか」(ウォン氏)
生成AIは決められた手順を確実になぞる決定論的な仕組みではなく、確率的に振る舞う。同じ入力でも出力が変わりうるということだ。だからエージェントが前の世代の自動化を上回るのは、これまでのやり取りを踏まえて自分の出力を見直し、必要な情報を外部から取りに行きながら、状況に応じて次の行動を自分で組み立てられる場面に限られる。
人手を介さず自らを学習・更新し続けるエージェントが理想の姿だが、今はまだ到達していない。だからこそ、既存の自動化とエージェントは使い分けの対象であり、どちらか一方を選ぶ話ではない。
AIが「取締役」に?すでに始まった驚きの活用法
こうしたエージェントが目指す先が拡張型ワークフォースだ。人間の経験と機械の効率やインサイトを組み合わせ、意思決定の能力と影響力を増幅させながら働く組織のあり方だ。人間の入力をほとんど必要としないタスクは自動化し、現場から管理職、経営幹部までの判断を、AIが示すタイムリーなインサイトやアドバイスが支える。「私たちが目指しているのは、人間とAIのパートナーシップです」とウォン氏は話す。AIが入るのは一部の業務だけではない。工場など現場の作業者が協働ロボットとチームを組む。バックオフィスでは、人の監視を減らしたオペレーション管理が回り始めている。研究者の領域では、生成AIが戦略的な計画や意思決定を支える。
専門職の領域では、交渉や契約書の草案作成、製品設計にも加わる。また、経営層に対しては、戦略や計画の立案、法務やコンプライアンスの判断材料をAIが提供する。
「取締役ボットという例が実際にあります。中東のある企業ではAIエージェントが取締役会に席を連ねて会議に出席し、時にはフィードバックを提供しています」(ウォン氏)
運用負荷50%減…先進3社の「AI活用」がスゴい
拡張型ワークフォースがどう形になるかは、先行する3社の姿がわかりやすい。BDO Colombiaは、社内オペレーションの拡張に取り組んだ。監査や税務コンサルティングを世界で手がけるBDOのコロンビア法人だ。社内では、昇給や異動にともなう給与の変更、休暇の申請といった手続きが手作業で処理され、進み具合を追いにくいうえ、連絡手段もばらばらだった。その結果ミスや対応の遅れが生じ、従業員と給与チームの双方を悩ませていた。
まず着手したのは、社内のシステム申請やトラブル対応にまつわる手作業のプロセスを25個特定することだ。そのうえでマイクロソフトのCopilot Studioを使い、それらを一元的に処理するチャットエージェント「BeTIC 2.0」を構築した。既存のRPAも残し、決定論的な自動化と組み合わせている。結果として運用負荷は約50%減り、給与処理プロセスの78%が最適化された。
米国のPrecina Healthは、コーチングを拡張した。慢性疾患を抱える患者を診る医師や医療従事者を支援するヘルスケアサービスの会社だ。同社は営業担当者向けのコーチングエージェントをSalesforceのプラットフォーム上に構築した。
医師は治療法や薬剤について、患者に説明するための情報を必要とする。そこに応じるのがPrecina Healthの営業担当者で、コーチングエージェントは、薬剤の効能をどう伝えるか、患者にどう説明するかを営業担当者に助言する。Salesforceのプラットフォーム上にはすでに患者データや業務の流れが整っている。そうした土台があるからこそ、エージェントは必要な情報を得て、次に取るべき行動を示せるようになった。
Send Paymentsは、顧客サポートを拡張した。オーストラリアとニュージーランドの加盟店を対象に送金サービスを手がけるデジタルネイティブ企業だ。エージェントを擬人化して「Sam」と「Barry」という名前を与えている。Samはリード選別を担い、全タイムゾーンで24時間365日の顧客対応を行う。
1日当たり10件のリードそれぞれに、人間と遜色のない個別対応を行う。Barryは品質保証とコンプライアンスを担当する。録音された通話をすべて分析し、決済業界に課される規制の要件を満たしているかを監視し、苦情処理の仕組みとも連携する。
AI開発を現場に丸投げは危険?「4つの判断基準」
残る問題はガバナンスだ。誰にエージェント構築を任せるかは、2つの軸で考えられるとウォン氏は話す。1つはエージェントの複雑さとリスクで、エージェントが何をするか、どんなデータやツールにつながるかがその目安になる。もう1つは、そのエージェントを使う範囲や対象ユーザーで、個人から部署、複数部署にまたがるワークグループ、企業全体へと利用が広がるほど、重要度は増す。
エージェントの複雑さとリスクを横軸に、範囲や対象ユーザーを縦軸に取ると、4つの領域が見えてくる。複雑さが低く、個人や部署にとどまる領域は、ビジネスユーザーが自己統制できる範囲だ。ガードレールと訓練を用意すれば、IT部門1件ずつ関与しなくても安全に運用できる。そこを超えると、専門の開発者と組んで作る領域に入る。さらに複雑さと影響範囲が大きくなれば、リリース前にIT部門の監視とガバナンスが必要になり、最も複雑で影響範囲が大きい領域は、市民開発の対象から外れ、IT部門が開発を担う。
ガバナンスの線引きは、現場の手を縛るためのものではない。安全に任せられる範囲を先に決めておけば、その範囲の中でエージェントの数はむしろ増えていく。
「市民開発者を拡張された人材として活用しながら、自分たちの仕事とその進め方を良くしていく。そこにビジネスケースを見出すことが最終的に重要です」(ウォン氏)
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