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  • 2020/11/16 掲載

及川卓也氏が解説、日本企業のIT活用の何がダメか?

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成長する企業と停滞する企業の分かれ目となるIT活用。現代において、世界のトップを走る企業のほとんどは、ITを巧みに駆使しており、それが成長のエンジンとなっている。一方、日本企業はどうかというと、IT活用を苦手とする企業が多いのではないだろうか。そんな日本企業のIT活用における“苦手”を克服しつつ、新型コロナ禍により変化した社会に適用するためのポイントについて、Tably 代表取締役 Technology Enablerの及川卓也氏に解説いただいた。

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Tably
代表取締役 Technology Enabler
及川卓也氏
大学を卒業後、外資系コンピューターメーカーに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、その後、別の外資系企業にてOSの開発に携わる。その後、3社目となる外資系企業にてプロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーとして勤務後、スタートアップを経て、独立。2019年1月、テクノロジーにより企業や社会の変革を支援するTablyを設立。著書『ソフトウェア・ファースト~あらゆるビジネスを一変させる最強戦略~』(日経BP)

IT活用に欠かせない3大要素とは

 ここ数年、世界のトップ企業の中に日本企業の名前を見ることはなくなってきた。毎年のように各国から優れたスタートアップなどが登場する一方、世界に通用する日本のスタートアップは数えるほどだ。その理由はどこにあるのだろうか。

 外資系IT企業やスタートアップを経て独立したTably 代表取締役 Technology Enablerの及川卓也氏は、「海外の勢いのある会社がITを駆使しているのに対して、多くの日本企業がITを活用できていないのが日本の伸び悩みの原因ではないか」と危機感を抱くようになったという。

 このように、日本企業の抱える課題と向き合い続けてきた及川氏は、IT活用を進めるための条件として、「技術・プロダクト・人と組織」の3要素を挙げる。このうち、どれか欠けてもIT活用は進まないという。

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技術、プロダクト、人と組織の3つが揃わなければ、ITの活用は進まない

 ここで重要なことは、ITは単なる業務効率化の道具ではないということだ。及川氏は、2019年に『ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』を上梓した。本書で語られていることは、表題とは裏腹に、「重要なのはソフトウェア」ということではない。最も重要なのは“事業”であり、その中核を担うのがソフトウェアということだ。

 「事業とは、お客さまの課題を解決することであり、お客さまへ価値を提供するということです。課題解決と価値創造のためにしっかり考えないといけないのがソフトウェアなのです」と及川氏は語る。たとえば、トヨタ自動車では、「自動車もスマホのようにソフトウェア化する」と社長自ら表明しているが、これがまさに「ソフトウェア・ファースト」の事例だ。

 新型コロナウイルス感染拡大により世界中の企業が大きな変化へのスピーディーな対応を求められる中、トヨタのようなソフトウェア・ファースト化が必要になっているのだ。それでは、ソフトウェア・ファースト化に取り組むためには何をすれば良いのだろうか。

 ここからは、現代で起きていることの「現状理解」を進め、「修復」すべき点を整理し、時代に即した「アップデート」の方向性を探りたい。

新テクノロジーとの向き合い方

 過去、社会を大きく変えた出来事とともに、技術の発展を振り返りたい。まずは、2011年3月11日の東日本大震災。当時はまだガラケーが主流で、スマートフォンが普及し始めた頃だった。日本発のSNSであるmixiに続々と地域コミュニティーが立ち上がり、支援情報・安否情報の共有が行われた。自治体サイトがダウンし、ボランティアのITエンジニアがミラーサイトを立ち上げ、及川氏が所属していたグーグルも安否確認サービス「パーソン・ファインダー」を短時間で立ち上げた。

 「東日本大震災は、社会に対してCloudとCrowdという2つの『クラウド』の力を示した出来事でした」と及川氏は振り返る。

 2001年9月11日、米国同時多発テロ。世界貿易センターに旅客機が突入し、多くの人命が失われた。まだSNSは存在せず、ネットニュースや掲示板などで今と比較すると限定的な議論が行われたのみだった。この事件をきっかけに始まったサービスも多い。たとえばGoogleニュースは、米国内の報道だけを見ていても米国同時多発テロの真相が分からない、世界中のニュースソースを比較したいというニーズに応えて生まれたサービスだ。

 1995年、阪神・淡路大震災。当時は一部のマニアの間で、パソコン通信が隆盛を極めていた頃だった。Windows 3.1ベースのマルチメディアパソコンも存在していたが、画像をアップロードすることは当時の通信速度やパソコンの性能では一般的ではなく、テキストベースでのコミュニケーションが主流だった。ただ、1992年には日本でも商用のインターネット接続サービスが開始されており、一部インターネットユーザーも存在していた。

 1990年代、2000年代、2010年代の社会に大きな影響を与えた出来事を振り返ってきたが、テクノロジーがすさまじい勢いで進化し、世の中も大きく変わってきたことに改めて気づかされる。東日本大震災の数年後に、深層学習が実用化されたことによる3回目の人工知能(AI)ブームが起こり、今に至ってもブームは終わっていない。2011年には14.6%だった日本のスマートフォンの世帯普及率は、2020年には77.6%となった。

 「1980年代後半から現在までに世の中を変えてきた技術の主なものをリストアップしてみると(下図)、それらが出てきた当初は今後主流になる技術とはみなされず、自分には関係ないと捉える人が多かったことが思い出されます」と及川氏はまとめる。少なくとも、コンシューマー向けには普及するかもしれないが、企業が積極的に利用する技術にはならないだろうと考える人が多かった。

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これらの世の中を変えてきた技術も当初は傍流技術と見る人が多かった

 この世界を変化させているものはテクノロジーであることを理解し、新しいテクノロジーを自分たちとは別世界のものとは考えず、貪欲に取り込んでいくことが大切だと及川氏は強調する。

企業がとるべき行動は「リメイク」?その意味とは

 ソフトウェアの修復は、英語にすると「リファクタリング」と「リメイク」の2種類がある。

 リファクタリングとは、ソフトウェア外部の動作を保ったまま、内部構造を整理し直すことを指す。以前は、曲がりなりにも動作しているソフトウェアを下手にいじらないのが常識だった。しかし、ソフトウェアを進化し続けさせるという観点からは、小まめにチェックし、見通しの悪い箇所に手を入れることが必須となる。隠れているバグが減って品質向上に寄与するし、可読性が高まるので保守効率が飛躍的に向上する。

 一方、リメイクとは、ソフトウェアの機能を保つことにはこだわらずに新しく作り直すことだ。その際に、ソフトウェアの目的を見直し、目的を達成するために最適な手段に変更することが必須になる。リメイクは企業にとって本当は何を目指しているのかを見直し、変化し続ける世界に対応するチャンスなのだ。「コロナ禍の今、企業にとって必要なことはリファクタリングではなく、リメイクです」と及川氏は指摘する。

 たとえば、コロナ禍においては、人と人との物理的接触の回避が強く求められている。このことが社会を大きく変えた。ウェビナーと呼ばれるオンラインセミナーが一気に広がり、リモートワークが大都市圏では常識化した。東京から地方、地方から東京への往来が制限されたことで、ビデオ会議システムが全国的に普及した。ロボティクスと絡めたリモート診療やリモート工事なども普及しつつある。小売ではeコマースの売上が飛躍的に伸びた。

 コロナ禍によるオンライン作業の増加によって見えてきたこともある。それは今まで隠れていたが顕在化した課題と、元々不要だったものだ。

 顕在化した課題の一例は、「従業員が仕事をしているかどうかをどうやって測定するか」という点だ。オフィスで在席しているところを上司に見せて、実際にはサボっている社員がいたとする。そのような社員はリモートワークになれば堂々とサボるだろう。かといってWebカメラでずっと監視するのは、真面目に仕事に取り組んでいる社員にとっては不愉快だ。

 したがって今後リモートワークを主流にしようと考える会社は、社員の労働を時間で測るのではなく、アウトカムで測ることが必要となってくる。しかし、今までアウトカムに対して給料を支払ってこなかったので、どうすれば良いかが課題となる。

 元々不要だったもの代表例は印鑑だ。リモートワーク時代に押印のためだけの出社はムダである。本当に印鑑が必要かと考えると、法律上どうしても印鑑が必要な行為以外はなくてもかまわないとする人が多数派となりつつある。しかも政府がそのような法律を見直すと表明しており、印鑑は今後ますます不要になる。印鑑不要論は以前からあったが、ここまでポピュラーな議論になったのは、やはりコロナ禍があったからだろう。

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コロナ禍で、今まで隠れていた課題や不要だったものが見えてきた

 オンライン作業の増加は、五感のうち視覚・聴覚のみしか伝わらないため、情報の欠落をもたらす。たとえば、オンライン会議で相手が不快そうな顔をしたとしても、それが気候のせいで不快なのか、発言が不快なのかは本人に聞いてみないと分からない。そのため、コロナ禍が収束したら、やはり対面のコミュニケーションに戻るだろうと言う人も多い。

 だが一度新しい体験をした人は元には戻れない。あの不快な満員電車に乗る日々に戻りたいかと聞かれたら、多くの人が「NO」と言うだろう。

 及川氏は、「店舗での顧客体験にこだわって、店舗の内装・料理・お客さまとの会話などをデザインしてきたレストラン経営者が知り合いにいます。彼は、もはやリアル店舗は無理だと、自分が本当に提供したかったものは何かを見つめ直しました。それは『食を通じてのコミュニケーション』であり、それならばオンラインでも可能ではないかと事業自体を見直しています」とリメイクの事例を紹介する。

 コロナ禍が収束すれば、また店舗に人が戻ってくるかもしれない。しかし、それがいつになるかも、元通りになるかも分からない。今の変化は不可逆的と捉え、それに対応するためのリメイクが今こそ必要なのである。

アップデートは“ヒト”から着手する

 アップデートするものは、「技術・プロダクト・人と組織」のすべてだ。どれが欠けてもいけないが、起点はどういう人とアップデートを推進するか、つまり人と組織の改革からとなる。

 新しいテクノロジーを他人事と捉える人たちと一緒ではアップデートは難しい。特に「真面目な人たちの善意ある行動がリメイクを阻害する」(及川氏)ので注意が必要だ。

 「Webとクラウドの普及で、必要な機能ができたらソフトウェアをリリースし、リリース後も頻繁にアップデートすることが主流になりました。しかし昔ながらのIT技術者には、『Web技術者は低品質のソフトをリリースして、後から直せば良いと思っている』と不快に感じる人たちもいます」と及川氏は言う。

 このような昔ながらの技術者は自分たちの時代の常識で若手にアドバイスすることが多い。そういったアドバイスをいちいち取り上げていると、3週間でできたことが半年以上かかることもある。それではアップデートは進まない。

 東日本大震災のとき、中学生がNHKのニュースをUstreamにアップした事件があった。Ustream側はNHKからクレームが来るまで黙認することにした。NHKのツイッター担当者がこのことに気づいたが、自分の責任で許可するとツイート、その後NHKも公式にこの行為を許可した。グーグルもYouTubeでTBSのニュースを配信したり、ホンダ自動車と協力して、交通情報をGoogleマップに載せるなどのサービスを提供したりした。

 こうした取り組みの中には元通りになったものもあるが、定着したものもある。世界同時多発テロのときも、阪神・淡路大震災のときも、私たちはありたい姿について考え、それを実現してきたのである。今こそもう一度、同じことをやるべきなのだ。今の変化を非可逆的なものと捉えて、新しい世界を創っていかなければならない。

 世界を変えるのがソフトウェアである。コードやプログラムと聞くと、無機質で冷たいものだと感じる人も多いかもしれない。しかし「本当に優秀な開発者は、コードの向こうにいる“人”を見ています。使っている人の笑顔や感謝の言葉を感じながらコードを書いているのです」と及川氏は言う。

 「コードでつなぐ想いと想い」は、及川氏が以前主導していた団体のミッションステートメントだ。人を中心としたソフトウェア技術でともに世界をリメイクしていこうと及川氏は呼びかけている。

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