• 2026/01/19 掲載

元アパレル販売員が「1日240時間」省人化、センコーで「物流DX人材」に激変できたワケ(3/3)

連載:「日本の物流現場から」

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DX人材育成を阻害する「人事評価の落とし穴」

 改善提案やビジネス変革のサポートを担う、ソリューションベンダー側の外部人材というと、コンサルタントを思い浮かべる人は少なくないと思う。

 しかし実際にはこういった役割は、(物流業界に限らず)営業職が担うケースも少なくない。筆者自身、IBMグループでWeb領域を担当するグループ会社に勤務していたころ、営業職でありながらプロジェクトマネージャーともコンサルタントとも言い難い微妙な立ち位置にあった。

 「ならばコンサルティングを顧客提案すれば良い」と思う人もいるだろうが、プロセスが1つ追加されるため、「そんな面倒かつ時間も掛かることをするのであれば、自分ですべてやってしまおう」と営業職自身も考えてしまうのだ。

 一方で石川氏は、営業職が営業活動以外の職務を抱え込んでしまうことの問題点について、「こういう働き方を強いると、優秀な人ほど転職を考え始めてしまいます」と指摘する。

 営業職の評価基準は、基本的に売上である。結果がすべてであり、営業プロセスは評価反映しないという会社も少なくない。結果、知恵を絞り提案型営業をするスキルフルな人も、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」といった御用聞き営業しかできない人も、同じ土俵でしか評価されない。

 先を見通す能力の高い人ほど、このジレンマに悩み、転職してしまうことを石川氏は指摘している。実際、先に挙げた元上司も会社を辞め、今は独立してケイテクノロジという物流コンサルティング会社を立ち上げたという。

 余談だが、大手SIerに勤めていた知己の営業担当者は、「システム営業って、もっと面白いものだと期待していたのに…」と落胆し、他業界へと転職していった。彼によれば、所属する会社の営業スタイルは、「システム刷新のタイミングを見計らって売り込む」御用聞き営業だった。変化と顧客との対話、そして課題解決提案を好む彼は会社の中では異端とみなされ、徐々に社内での肩身が狭くなっていってしまったのだ。

「今振り返ると、『新しい自動化マテハンの導入を提案できる』ような人は、変化を好む人が多かったように感じています。当時優秀だと尊敬していた先輩や同僚の中には転職してしまった人もいます」(石川氏)

 今のセンコーは、営業職に対して売上結果だけではない評価軸を導入している点で一歩先んじていると言えよう。DX人材を育成できない企業の中には、いまだにDX人材育成の芽がある営業職に対し、プロセスや営業スタイル、個人の能力などに対する評価方法を用意できていない企業も多いからである。

DX人材に「現場経験」は必要か?

 センコー入社以来、ずっと営業畑にいた石川氏だが、現場への転属希望を出し、2023年4月からユナイテッドアローズ 流山ロジスティクスセンター(UA流山LC)のセンター長に就任した。

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ユナイテッドアローズ 流山ロジスティクスセンターには、石川氏が提案した自動倉庫システム「AirRob(エアロボ)」(+Automation)が導入されている
(筆者撮影)

 UA流山LCは2018年8月に竣工。ピースソーターなどの大型自動化マテハンを導入した最先端の自動倉庫として、筆者も注目していた。石川氏は営業として2020年4月からUA流山LCを担当してきた。

 ではなぜ、石川氏は現場に行きたがったのだろうか? 「『現場を経験していない』というコンプレックスもありました」と前置きした上で、石川氏は以下の理由を挙げた。

  • 立ち上げ後、半年、1年といった範囲で現場に入ってはいたものの、現場責任・収支責任を持つことはなかった

  • 自分がこれまで提案してきた自動化マテハンなどについて、現場目線からその効果について答え合わせをしたかった

 「現場を経験したことがない」というコンプレックスは、物流業界の事務職・営業職などの人からはたびたび聞く。だが、ことDX人材の育成という点では、現場を経験したほうが良いのだろうか?

「難しいですね…考える力や経験値は営業のほうが得やすいかもしれません。また経験上、『痒いところに手が届かない』ソリューション提案は現場未経験者が携わったケースが多いとも感じています。とはいえ、いずれも一長一短はありますね」(石川氏)

 現場を経験しすぎると、現場の重力とも呼ぶべきものにとらわれ、自由な発想を妨げるケースがあるのも事実である。

 一方、筆者は石川氏を「物流の素人だった」と断定することに違和感を覚える。なぜならば、石川氏は荷主側にいてサプライチェーンに携わったという、物流事業者にいるだけでは体験できない経験も積んでいるからである。

【結論】DX人材育成に欠かせない「ある環境」

 石川氏は、豊かな経験値と「問いを立てる能力」を備えた稀有な人材だ。しかし、彼の成長を、良き先輩との出会いや個人の資質という偶然の物語として片付けてはならない。

 注目すべきは、彼が顧客にとって最適な解を追求できる自由度の高い環境にあって、成長するために必要なピースの多くを体得する機会を与えられていたことである。これらがなければ、これほどスキルフルな人材にはなれていなかっただろう。

 DX人材になるためには、個人がもともと備えている素養も欠かせない。だからこそ企業は、より多くの従業員に対し成長の機会を与え、失敗を恐れずに挑戦できる環境を用意することが求められる。こうして、DX人材へと成長する歩留まりを上げていくことが大切なのだ。

 幸運と偶然に頼った人材確保は育成ではない。また、優秀な人材が取り合いとなっている日本では、外部からDX人材を調達しようとしても難しいし、こういった人材は、もともとあった企業文化に悪影響をもたらす危惧もある。

 DX人材が育つべくして育つ環境を用意する覚悟があるかどうか──今、多くの企業が試されている。

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