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  • 2022/12/23 掲載

日銀、なぜ突然「緩和修正」を決定? 酷評あっても「日銀の作戦勝ち」と言えるワケ

【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」

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年末で金融市場が閑散とする中、日銀は予想外にイールドカーブコントロール(YCC)の修正に踏み切った。筆者の知る限り、今回の政策修正を事前に予想していた市場関係者はいなかった。ニュースヘッドラインを“二度見”した市場関係者が多かったことは容易に想像がつく。日銀が政策修正に踏み切った背景とは。そして2023年の金融政策はどうなるのか。

執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代宏一

執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代宏一

2005年、第一生命保険入社。2008年、みずほ証券出向。2010年、第一生命経済研究所出向を経て、内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間「経済財政白書」の執筆、「月例経済報告」の作成を担当する。2012年に帰任し、その後第一生命保険より転籍。2015年4月より現職。2018年、参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当領域は、金融市場全般。

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市場関係者の予想を裏切った政策修正の背景と今後の動向とは
(写真:つのだよしお/アフロ)

10年金利の変動幅を拡大、金融環境への悪影響を危惧

 今回の決定はあくまでYCCの「修正」であり、政策金利の誘導目標そのものを「変更」するものではなく、短期金利はマイナス0.1%、長期金利は0%程度で据え置かれた。今回、修正が施されたのは10年金利の「変動幅」である。従来のプラスマイナス0.25%とされていたものが今回プラスマイナス0.50%へと拡大された。

 念のため解説しておくと日銀が定める10年金利の誘導目標は「0%程度」、その「程度」の定義が今回「プラスマイナス0.50%」に変更されたというわけだ。政策修正の狙いの一つに、市場機能の復活がある。

 2022年入り後、海外の主要中央銀行が金融引き締めを急ぐ中で世界的に長期金利が上昇していたのをよそに、日本の10年金利は日銀が上限と定める0.25%で頭打ち感となっており、本来の意味での “金融市場”から隔離された状態になっていた。

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世界的に長期金利が上昇している中、ようやく日本も修正に踏み切った
(Photo/Getty Images)

 通常、長期金利はその国の体温(≒経済・物価動向)を示すものであるが、それがYCCによって著しく機能が損なわれているとの指摘は多くあり、日銀自身もそれを自覚していたことから、長期金利の変動幅拡大に踏み切ったとみられる。

 日銀は今回の決定の背景について「債券市場では、各年限間の金利の相対関係や現物と先物の裁定などの面で、市場機能が低下している。国債金利は、社債や貸し出し等の金利の基準となるものであり、こうした状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼすおそれがある」と記載し、YCCによる市場機能低下を認めた。


黒田総裁「利上げではない」と強調

 長期金利の変動幅拡大は事実上の利上げに相当するが、黒田総裁は記者会見で「利上げではない。金融引き締めではまったくない」と繰り返し、また声明文にも「金融緩和の持続性を高める」目的であるとの旨が明記された。

 端的に言えば、「事実上の利上げはしたけれども、それによって緩和的な金融政策が長く続けられるようになるのだから、そう考えれば金融引き締めではない、むしろ緩和的だ」という論法だ。

 こうした情報発信は日銀が過去に引き締め方向の政策修正(たとえば2021年3月のETF買い入れ方針変更)を決定した際にも用いられていたからもはや驚きはないが、改めてその説明が「巧」であることを痛感させられた。今後、日銀がマイナス金利の撤回を含めた金融引き締め方向への政策変更に踏み切る際は、こうした巧みな説明で過去の発言と整合性を確保していくとみられる。

【次ページ】なぜ突然、金融緩和修正が決まったのか?

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