“高い・大企業向け”は誤解…?中堅・中小企業の方が「SAP ERP」で成果を出しやすい理由
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業務システムとERP、違いを説明できる経営者は1割?
「実際は会計システムしか導入していないのに、“当社はERPを入れている”と話す企業は珍しくありません。そもそも、業務システムとERPの違いを理解している中堅・中小企業の経営層は、肌感覚で1割ほどです。個々の業務はシステムで効率化されてはいるものの、顧客や商品、部門ごとのデータ基準が統一されておらず組織ごとに情報が分断されています、転記や二重入力、経営会議前の数字の突き合わせといった分析前の加工に追われている企業が多いです」(鍋野氏)
代表取締役
鍋野敬一郎 氏
こうしたERPへの理解が進みにくい背景の一つとして、鍋野氏は中堅・中小企業の人員面の課題を挙げる。情報システム部門の人員が限られ、日常的なIT運用から基幹システムまで幅広く担っているため、ERPについて十分に学ぶ機会を持ちにくいという。実際、鍋野氏がこれまで関わってきた企業では、「なぜ在庫情報と会計が連動していないのか」「なぜ受注に応じて購買が動かないのか」と尋ねても、「業務も部門も違うから」と受け止められることがあった。ERPを複数の業務に導入していれば、ERP上でその情報は自動的に連動していることに気づいていないようです。
では、中堅・中小企業が混同しがちな「業務システム」と「ERP」は、具体的に何が違うのか。SAPジャパン バイスプレジデントの田原隆次氏は、個々の業務を効率化するのが「業務システム」であるのに対し、部門をまたいでプロセスとデータをつなぎ、会社全体の最適化や経営判断につなげるのが「ERP」だと説明する。
その違いは、個別の部門から見える景色と、経営の視点から見える景色の違いを考えると分かりやすい。たとえば、工場の担当者から見れば在庫の積み上がりが「安心な適正在庫」に見えていても、全社の数字と結び付ければ、在庫というお金が積み上がり、キャッシュフローを圧迫している、と見えてくる。一つの部門だけを見ていては気づけない経営上の課題を、各部門のデータをつなぐことで可視化する。
こうした「部分最適」から「全体最適」へと視点を広げられることが、業務システムにはないERPの大きな特徴だ。
なぜ今ERP?業務時間の8~9割を奪う“ある作業”
バイスプレジデント
ミッドマーケット事業統括本部長
田原 隆次 氏
一つは深刻な「人手不足」だ。労働人口は10年後には現状より1割減少するとされ、採用そのものが難しい中堅・中小企業ほど、この影響は死活問題となる。
「もはや、人が潤沢に採れないことを大前提として、これからのオペレーションやビジネスモデルを組み立てていかなければならない時代に入っています」(田原氏)
これまで、人がシステムとシステムの間をアナログ対応や手作業でつなぐことで成り立っていた業務プロセスは、人手不足が深刻になれば維持することが難しくなる。個々の業務を個別のツールでつなぎ合わせるのではなく、業務やデータが最初から一つにつながり、少ない人数でも回せる全社統合基盤として、ERPの重要性が高まっているのだ。
もう一つの変化が、急速に進化する「AI」の存在だ。田原氏は「AIに自社の組織や権限・ルール、プロセスとその意味あいを正しく説明し結果としての正しいデータを提供できなければ、ビジネスの現場でAIは一切使えません」と語る。
「議事録・資料作成やアイデア出しに使う汎用的なAIと異なり、業務執行や経営判断を担う“ビジネスAI”には、80%程度の精度では到底実用に耐えませんし運用上のガードレールも必要です。そこで求められるのは、整備されたビジネスプロセスと鮮度、粒度、精度が高い正しいデータ、ガバナンス、耐監査性です。精度の低い、いわば“ゴミのような”データをいくら集めても、ゴミからはゴミしか生まれませんし(Garbage In, Garbage Out)、自分たちの会社がどういう組織で、どのような権限・ガバナンス・業務プロセスで動いていて、結果としてのデータがどうなっているのかが、AIに説明でき、AIが読める構造になっていて初めて、ビジネスAIは価値を持ちます」(田原氏)
鍋野氏も、AI活用の前提となるデータには、正確さだけでなく、常に最新の情報が蓄積され、後から恣意的に書き換えられない信頼性が必要だと指摘する。問題は、多くの中堅・中小企業が、そうしたデータをAIに使わせる以前の段階で、多くの時間と手間を費やしていることだ。
「しかし、現実に目を向けると、多くの現場ではAIを活用しようにも、分析前のデータ収集や整理、Excelでの数字合わせといった泥臭い手作業に、全業務時間の8割から9割を奪われています。これではいつまで経ってもAI readyにはなれません。もし、ERPが導入され業務に馴染んでいれば、必要なデータの8~9割は最初からデータベースに綺麗に揃っています。人間はそれを探したり加工したりする手作業から解放され、最後の1割の「仕上げ(=情報を基にした的確な判断や、AIへの指示)」に集中すればよくなるのです。
【誤解1:高い・大企業向け?】費用がかさむ本当の理由
田原氏は、SAPジャパンの顧客の8割以上が中堅・中小企業であり、年商100億円以下の企業が全体の4割、500億円以下では5割に達するというデータを示した。直近では、年商4億円で導入を決めた地方企業の例もあるという。
価格が高いという印象について、田原氏は「プロジェクト費用の8割以上が導入作業そのものにかかる費用です。現行の業務にシステムを無理に合わせようとして追加開発が膨らめば、当然コストも膨らみます」と話す。
SAPのパートナー企業は国内に約500社以上あるが、当然ながら大企業向けを主戦場とする導入パートナーに見積もりを依頼すれば、数十億円規模の提案になることも珍しくない。中堅・中小企業を主戦場とする導入パートナー選びや、ERP導入を単なるシステム導入と捉えず、「業務プロセス改革を伴った経営改革」と捉え、標準機能を生かす進め方をすることで、導入コストは大きく変わる。
さらに、運用後のランニングコストも、他の選択肢と大きな差はないそうだ。「高いかどうかは、どことパートナーを組み、どういった方針、アプローチで進めるかで決まる」というのが田原氏の見立てである。
一方、「グローバル企業でなければ扱えない」という誤解について、田原氏は次のように話す。
「SAPジャパンの中堅・中小企業の顧客の8割以上は国内のみで利用しており、多言語・多通貨に対応が必要なグローバル展開を前提としなくても、日本語や日本の商習慣、法制度にきちんと対応した基盤の中で活用できます」(田原氏)
対象となる業種の幅も広がっており、組立製造業はもちろんのこと、もともと親和性が高い化学や製薬など複雑な規制対応が求められる業界に加え、現在は流通・サービス業、商社、出版、広告代理店など非製造業の顧客の導入事例が半数以上を占めているということだ。
【誤解2:導入大変?独自仕様に合わない?】8カ月刷新も…
また、SAPのパートナーの中には、業種ごとに範囲・費用・期間をあらかじめ固定し、スピーディに提供できる仕組みを用意するところがある。田原氏が「Fit to Industry」と呼ぶこの仕組みは、いわば業界ごとの標準アーキテクチャとも呼ぶべきもので、こうした仕組みを使えば1年以内での本稼働も現実的だという。
「日本のプロジェクトは、海外に比べて期間もコストも2倍近くかかる傾向があるといわれています。しかし、その要因は業務改革をしない現行踏襲型アプローチで作り込みすぎてしまうことや、社内調整に時間がかかることにあるケースもあります」(田原氏)
鍋野氏は、いきなり本体の基幹システムを丸ごと刷新するのではなく、海外拠点や新設子会社など範囲を限定し、スモールスタートで始める進め方も有効だとする。過去には、発表からわずか2カ月半で新会社を稼働させなければならなかった事例もあり、「必要最低限は何か」を突き詰めれば現実的に対応できるケースがあるという。
一方で、「自社の独自業務には合わない」という誤解についても、田原氏はSAP ERPのすべてを標準機能でまかなうわけではないと説明する。
「主要な業務プロセスは標準機能で運用しつつ、競争優位の源泉となる独自のプロセスについては、外部のツールと連携、もしくは部分的な開発をする形で対応できます。重要なのは、それが本当に手放せない独自性なのか、単なる過去からの慣習、属人化起因なのかを、システムの見直しを機に見極めることです(田原氏)
鍋野氏はプロジェクトの成否について、「うまくいかないケースは半分近くあるというのが実感です」と率直な感想を述べる。失敗の原因の多くは、部門横断でプロジェクトを進める難しさを軽視したり、ERP製品の特長が実際に何を実現できるかを裏取りせずに、導入ありきで進めてしまったことなどがある。つまり、導入するERP製品を十分に調べて学んで、その特徴や機能をどう使いこなすかをしっかり準備すれば失敗リスクは減らせます。
田原氏はこれを「命に関わる大手術を受けるときに、病院や執刀医の実績を調べるのと同じだ」とたとえる。ERPベンダーやSIベンダーの営業トークをそのまま信じるのではなく、導入を検討している企業自身が、実際にそのシステムを使って稼働している既存ユーザー企業に、使用感や成果を直接確認することも有効だという。それはSAP自身の営業トークについても例外ではないと田原氏は述べ、鍋野氏も「直接使っている企業の事例から学ぶのが正解だ」と同意する。
大企業よりも中堅・中小企業の方がうまくいく理由とは
全社最適に取り組むにはトップダウンの意思決定、部門横断の推進が欠かせないが、大企業に比べて中堅・中小企業は意思決定に関わる人数が少なく、オーナー企業も多いため、トップの決断、影響が組織の隅々まで届きやすい。部門の壁も中堅中小企業にもあるが大企業より高くなく乗り越えやすい。こうした理由から、社内の部門間対立でプロジェクトが停滞する大企業の例がある一方、SAP ERPを導入、活用に導き、単なる業務システムではなく経営手法として導入し統合的な価値を引き出せている企業の中には、中堅・中小企業が目立つという。
鍋野氏は、基幹システムの見直しを、「自社の立ち位置を捉え直す機会と捉えるべきだ」と話す。
「基幹システムはおよそ10年から15年、工場の設備であれば15年から20年で更新期を迎えるとされます。その節目は、他社との違いを知り、自社の強みと弱みを見極める好機でもあります。システムを検討するということは、上述したように、実際にシステム刷新に成功した他社のケースを見に行けるチャンスでもあります」(鍋野氏)
ERP導入を「高い」「複雑」「大企業向け」という言葉だけで検討の土俵から外してしまうのは、中堅・中小企業にとってむしろ機会損失かもしれない。これまでの両者の話が示すのは、企業規模の小ささはSAP ERPを使いこなすうえでのハンデではなく、意思決定の速さという強みにもなり得るという事実だ。まずは同じ規模でSAP ERPを使いこなしている企業の“今”を、自分の目で確かめてみてはどうだろうか。