- 2025/12/25 掲載
もはや大卒は負け組に…? トランプ政権が煽る「ブルーカラービリオネア」現象の真相(2/3)
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
高卒の防水・修理工が「まさかの年収○億円」
先述のような状況を踏まえ、労働者層の再興を掲げるトランプ政権は、ブルーカラー職の高給を「政権の経済政策の成果」として宣伝し始めた。この流れを受けて、米メディアが「ブルーカラービリオネア」に着目した報道を始めたわけだ。その政策も相まって、ホワイトハウスが6月に公表した資料によれば、第2次トランプ政権の最初の5カ月でブルーカラー労働者の時給は前年比1.7%上昇(図2)。賃金上昇率が低迷するホワイトカラー労働者よりも高い伸びを示した。
最も有名になったのが、高卒の18歳で働き始め、地下室や床下の防水・修理分野で大きな成功を収めたラリー・ジャネスキー氏だ。年収は6億ドル(約935億円)超と、文字通りの億万長者である。日本の防水工の平均年収が400~600万円とされていることから、その額の大きさに驚かされる。
とはいえ、ブルーカラー出身でジャネスキー氏ほど稼ぐ人は極めて少数である。米ビリオネアの長者番付を見ても、イーロン・マスク氏やラリー・エリソン氏、マーク・ザッカーバーグ氏のような大学中退の億万長者は多いものの、高卒や肉体労働者出身の人はほとんどいない。
しかし米労働市場で大卒者の余剰感が見られる中で、AIによる代替をあまり心配しなくてもよく、賃金の高いブルーカラー職は注目の的だ。図3のように、収入などの条件が良いにもかかわらず、募集枠が埋まらないものは多い。
この需給のミスマッチにより、さらなる賃金上昇の余地が見込めることは特筆される。
トランプ政権が優先度を上げた「ブルーカラー奨励策」
絶対数が不足するブルーカラー労働者は米国で引っ張りだこであり、賃金上昇率も他の職種と比較して高い。だが同時に、ブルーカラー労働者を取り巻く環境が過去10年ほどで大きく変化したわけでもない。「ビリオネア」の言説は誇張である。では、なぜ肉体労働が改めて見直されているのか。そこには、没落した労働者層の復活により、「米国を再び偉大にする(MAGA)」というトランプ大統領のビジョンが一定の影響を与えているように見える。
先に見たように、トランプ大統領はブルーカラー労働者の収入増加に大きな関心を持っている。2017~2021年の第1次政権時には400以上の企業と連携して技能実習生の訓練強化を打ち出し、第2次政権では労働省・教育省・商務省に対して、製造業の回帰と連動する技能職リスキリングの強化を命じた。政策優先度がさらに上がっている。
実際に、大学への研究補助金などを中心に、2026年度の教育予算が15.3%削減される一方で、キャリア技能教育(Career and Technical Education)関連の予算は拡充され、一種の国策化していることは注目される。
また、トランプ政権は高校レベルにおいても、大学進学に代わる職業訓練を奨励している。 【次ページ】ブルーカラービリオネアを生んだ「トランプ政権の思惑」
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