• 2025/12/25 掲載

もはや大卒は負け組に…? トランプ政権が煽る「ブルーカラービリオネア」現象の真相(3/3)

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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ブルーカラー奨励を進めざるを得ない「米国の切実事情」

 このような「大卒エリートの養成」から「職業訓練重視」への一連の政策変更は、大卒エリートの党となったライバル民主党への対立軸を打ち出す目的もある。

 だがそれ以上に、過去には経済格差を是正する有効な手段であった大学教育が、逆に大卒者と非大卒者の貧富の差を拡大させる弊害をもたらすという、大きな社会的矛盾が誰の目にも明らかになっている。さらに、多くの大卒者が仕事に就けず、従来の教育政策には行き詰まり感があり、根本的な是正は待ったなしだ。

 加えて米製造業の雇用は、製造業回帰を唱えるトランプ大統領が返り咲いた2025年の4月から8月の5カ月間だけで4万2000人も減少している。米連邦準備制度理事会(FRB)が2022年3月に開始した高金利政策や、トランプ関税がもたらす先行き不透明による採用の抑制、さらに景気サイクルがもたらす循環的失業の増加、新型コロナウイルスのパンデミック期における過剰採用の調整などが要因に挙げられるだろう。

 だが、自動化の進む現代の工場では、多くの場合に大卒資格を必要とする技術者・開発者・製品の専門家が配置され、低技能の組立工は少なくなっている。この傾向は中長期的に変わるとは思われないため、トランプ政権は製造業におけるブルーカラー雇用低迷を補う方策を打ち出す必要に迫られていた。

 そこで政権が着目したのが、電気工・配管工・建設労働者・石油や天然ガスの採掘現場の労働者など高給な仕事だ。「ブルーカラービリオネア」の言説はここから生まれている。

ブルーカラービリオネアを生んだ「トランプ政権の思惑」

 さらに、保守的な価値観への回帰を目指すトランプ政権にとり、特に若年層男性ブルーカラー労働者の支援は、大目標の「米国の再興」において中心的な意味を持つ。

 図4は第2次世界大戦終了後の米国における男女別の労働参加率の推移を示したものだ。

画像
図4:女性の労働参画は戦後からほぼ倍増している一方、男性は約22ポイント減少している
U.S. Bureau of Labor Statisticsより編集部作成)

 女性は1948年の30%台前半から2024年に57.4%とほぼ倍増しているのに対し、男性は90%近くから67.9%まで低下している。米アトランティック誌が指摘するように、経済力の低い男性の増加は、「結婚に適した男性の減少」をもたらす。

 米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、米国の大学における女子学生の数は男子学生を上回る。より多くの大卒女性が高賃金の専門職に就く中、進学率で劣る男性は女性よりも稼ぎが少ない場合が多く、大卒女性のお相手としてふさわしいと見てもらえない。

 さらに悪いことに、25~34歳の米国人男性の19%が両親と同居しており、婚姻率低下の一因となっている。米国において1960年には18~35歳の出産年齢人口の65%が結婚していたが、これが51%まで低下。その結果として、婚姻率の低下が米出生率の低下を生んでおり、2024年には人口置換レベルの2.1をはるかに下回る1.6にまで下がった

 不法移民追放政策によって、移民の人口増加への寄与や、彼らの高い出生率に頼れないトランプ政権。「結婚に適した男性の増加」を印象付ける「ブルーカラービリオネア」の言説は、若い男性の労働参加率を高め、高給を稼ぐ結婚に適した男性を増やし、移民ではない米国人の子供を増やす底意があると見てよいだろう。

 機械設置・メンテナンス・修理、建設、製造や運輸のブルーカラー分野では、圧倒的に男性比率が高い。それらを政府が支援すれば、若い男性の労働参加率の向上、年収の増加や婚姻率の上昇をもたらせる可能性がある。さらに、彼らの高い失業率や自殺率を低下させ、経済格差の是正にも貢献し得る。

 巷に流布する「ブルーカラービリオネア」は誇張された話だが、若い男性による肉体労働の再評価によって労働市場のミスマッチを解消し、社会問題をも解決する野心的な試みであることは間違いないだろう。

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