- 2025/06/29 掲載
アングル:アフリカ地域決済システムが前進、課題は「トランプリスク」
[ナイロビ 20日 ロイター] - アフリカの地域通貨決済システム「PAPSS(パンアフリカ・ペイメンツ・アンド・セツルメンツ・システム)」が、じわじわと地歩を固めつつある。決済当事者が自国通貨を利用することが可能で、従来のドル決済に比べてコストが格段に軽減されることが大きなメリットになる。課題は、ドル依存脱却の動きに対して関税を通じた「報復」をちらつかせているトランプ米大統領とどう折り合うかだ。
中国やロシアも、ドル決済圏や西側の金融システムとは異なる独自の決済システムの開発を推進している。背景には、世界の貿易や国際秩序の構造を転換させようとしているトランプ氏に対抗しなければならないという切迫感がある。
ただPAPSSの場合は、開発理由はこれらの地政学的要因よりも、あくまでコストの問題という側面が大きい。
PAPSSのマイク・オグバル最高経営責任者(CEO)は「われわれの目標は、もしかすると人々が思い浮かべる姿とは逆に、脱ドル化ではない。アフリカ経済に目を向ければ、各国は決済に使える第三者的グローバル通貨の入手に苦戦していることが分かる」と述べた。
アフリカの商業銀行は、国境をまたぐ取引の決済を円滑に進める上で、海外の金融機関、いわゆるコルレス銀行に依存するのが普通だ。これはアフリカの近隣諸国間の取引にも当てはまる。
ただそうしたコルレス銀行経由の決済は貧弱な輸送インフラといった他の要素と並んで取引コストを大幅に増大させる。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、アフリカにおける貿易コストは、国際平均よりも50%高い。
シラキュース大学(ニューヨーク)のダニエル・マクドウェル教授は「アフリカにとって総じてドル(決済)を基本とする現行の金融ネットワークは効率が悪く、コストがかさむ」と指摘する。
<拡大するネットワーク>
PAPSSのデータからは、コルレス銀行経由の決済ではアフリカ諸国間の貿易コストは取引額の10-30%に達するが、PAPSSに移行すれば1%にとどまることが分かる。
例えばPAPSS利用の場合、ザンビアの企業がケニア企業からの製品購入する取引の際にも、買い手と売り手双方とも自国通貨で決済し、わざわざドルに転換する手間が省ける。
オグバル氏はロイターに、ナイジェリアやガーナ、南アフリカなどの通貨をアフリカ諸国間の貿易決済に使えば、年間で50億ドル相当のハードカレンシーを節約できると説明した。
PAPSSは2022年1月の立ち上げ当時、わずか10行の商業銀行が参加しただけだったものの、現在ではザンビア、マラウィ、ケニア、チュニジアを含む15カ国に広がり、150行が加入している。
オグバル氏は「われわれの取引は非常に大きく成長している」と胸を張った。
一方世界銀行グループの国際金融公社(IFC)は、アフリカ企業に対して自国通貨建てローンの供与を開始している。
IFCのアフリカ担当バイスプレジデント、エティオピス・タファラ氏は、アフリカ企業をドル借入に伴う通貨リスクから救うことが、彼らの成長にとって不可欠なため、そうした措置を打ち出したと述べた。
<G20で土台整備>
アフリカの地域決済システム推進の取り組みは、20カ国・地域(G20)の議長国となっている南アフリカの下で土台が整えられている。
南アは既に、G20財務相・中央銀行総裁会議の場でこの取り組み強化を議論する機会を設けており、今後具体的な行動に向けた話し合いを行いたい意向。次回のG20財務相・中央銀行総裁会議は7月半ばに開催予定だ。
南ア準備銀行(中央銀行)のクガニャゴ総裁は2月、アフリカ経済を機能させるためには自国通貨で貿易・決済を始めることが大事だと強調した。
しかし問題は、貿易ないし準備通貨としてドルから距離を置こうとするような動きにトランプ氏が猛反発していることだ。
主要新興国BRICSがドル依存を減らし、共通通貨創設を検討すると表明した後、トランプ氏は100%の関税発動を示唆。1月に自身のSNSで「BRICSが国際貿易、あるいは別のいかなる分野でもドルに取って代わるチャンスはゼロだ。そういう試みする国は関税と出会い、米国と決別しなければならない」と主張した。
シラキュース大学のマクドウェル教授は、自国通貨決済の利用拡大の意図が実際に何であろうと、アフリカは中国やロシアのような政治的動機による脱ドル化と差別化を図るのに苦戦しそうだと予想。「それは地政学絡みだと思われてしまう公算が大きい」と付け加えた。
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