• 2020/12/04 掲載

アングル:ショートよりロング偏重、株高の裏にある投資家心理

ロイター

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伊賀大記

[東京 4日 ロイター] - 歴史的な株高の背景にはロング(買い)偏重の投資家心理が働いている。未来は誰にも読めないが、上下のリスクが同じであれば、買いから入るのが株のセオリーだ。債券市場でも保有商品上、ロング重視にならざるを得ない機関投資家は多い。こうしたバイアスに加え、低成長による運用難と経済政策由来のカネ余りが、足元の株高と低金利の併存を促している。

<株の万年強気には理由も>

株式市場は、しばしば万年強気と言われる。長い目でみれば、これまで上昇基調を維持してきた「実績」もさることながら、ロング(買い)の方が戦略的に有利だということも、その1つの要因だ。

株価1000円の銘柄が0円になれば損失は1000円だが、1万円になれば9000円のプラスになる。損失は限定的だが利益は理論上無限大だ。また、株を買っておけば、配当や株主優待ももらえる。

一方、ショート(売り)で儲けるのはなかなか難しい。信用取引では、貸株料や逆日歩といった、ロングでは必要のないコストが発生する。もちろん配当ももらえない。よほどのネタ(売り材料)を持っていれば別だが、全体がロングに傾く中で、ショートで持ちこたえるのは至難の技だ。

ロングに傾きやすいのは、サラリーマン的な事情もある。「日本の銀行では損失の発生を非常に嫌う。1000円の損と2000円の益が同時に発生するトレードでは、トータルでみれば1000円のプラスだが、1000円の損が発生することを避けたがる傾向がある」と、銀行出身のあるファンドマネージャーは語る。

「新型コロナウイルスのワクチンは効くかもしれないし効かないかもしれない。未来は誰にもわからないが、上下のリスクが同等とすれば、上昇にベット(賭け)しやすいのが株式市場だ」と、アストマックス投信投資顧問の執行役員運用部門長、山田拓也氏は指摘する。

<債券買いが基本の生保>

債券市場でも、ロングポジションが中心という投資家が多い。生保や年金などは、顧客との長期の保険契約など抱える。それに対応した超長期債などを買うのがALM(資産と負債の総合管理)だ。「生保は負債との見合いで債券など資産を買うのが運用の基本」と、ある中堅生保の運用担当者は語る。

債券のロングは、金利上昇(価格下落)のリスクはあるものの、クーポン(利息)がもらえるほか、債券には満期が近づくに従い価格が上昇するというロールダウン効果もある。

一方、ショートは長い契約期間の商品と対応させにくい。先物はロールオーバーによって乗り換えもできるが、基本的に3カ月という期限がある。

さらに、今回はワクチンが普及して景気が回復しても、中央銀行はすぐに金融政策の引き締めには動けないというのがマーケットの読みだ。「コロナの後遺症が深く残る中で引き締めに動けば、経済弱者を見捨てるのかと批判されかねない」(国内証券ストラテジスト)とみられている。

  「現在の国債市場は、大量の資産買い入れを行っている中銀の影響が大きい。いずれ引き締めのタイミングが来るだろうが、中銀がそういうそぶりを見せない限り、金利は上がりにくい。つまりショートは不利な状況が続く」と、野村証券のチーフ金利ストラテジスト、中島武信氏は指摘する。低金利環境の継続予想が今の株高の大きな原動力だ。

<低成長とデジタル化が株高要因に>

こうしたロング戦略は、いわゆるカネ余り相場と、その裏側にある低成長経済によって加速している面もある。

先進国で高齢化が進み新興国でも所得水準が上昇する中、経済成長の源泉である「フロンティア」が乏しくなりつつある。低成長をカバーするために政策当局は財政出動と金融緩和で雇用を維持。そこで生み出されたマネーが金融市場に流れ込んでいる。

「低成長で儲かるビジネス(事業)が少なくなった。一方、利回りはどの金融資産も低くなっている。投資家はマーケットに大量に資金を投入して、薄く広く稼ぐしかない」(外資系金融機関の債券運用担当者)という。

さらに、デジタル化が低成長と株高の一因になっているとの指摘もある。「デジタル化は高所得者層に所得を集中させる。高所得者層は消費性向が低いため、潜在成長率を低下させるのと同時に、彼らの投資を通じて株高を生み出す要因になっている」と、ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏はみる。

しかし、実体経済から乖離したバブルが発生すれば、いずれは崩壊する。「3密」の回避などコロナが与えた影響は深く長く経済にコスト増として残る可能性がある。「パンデミックは潜在成長率を低下させた」と、BNPパリバ証券のチーフエコノミスト、河野龍太郎氏は分析する。

「最後にバスに乗るのは誰か」──。楽観に包まれる今の株式市場だが、投資家たちは、ロングを積み上げる一方で、金融相場の終わりを告げるシグナルが灯るタイミングを見極めようとしている。

(伊賀大記 編集:田中志保)

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