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  • 2006/10/16 掲載

【グーグル・アマゾン化する社会(1)】Web2.0の光と影 情報の多様化による一極集中問題をどう捉えるか?

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Web2.0的なテクノロジーによって、「フラット化の社会」が到来し、企業や個人が積極的に情報を収集、発信する時代になってきた。その一方で、本当に「フラット化」が進んでいるのか?という疑問にスポットをあてる識者がいる。ジャーナリストの森健氏だ。Web2.0の光と影を踏まえて今度どのようにビジネスを展開していけばよいか。2回にわたり、インタビューの模様をお届けする。

 インターネットビジネスのトレンドとして、「Web2.0」という言葉が話題になっているのは周知のとおりだろう。Web2.0的なテクノロジーによって、いわゆる「フラット化の社会」が到来し、マスメディアだけでなく、企業でも個人でも様々な情報を積極的に収集・発信できる時代になってきた。しかし、その一方で、「企業や個人のレベルで、本当にフラット化が進んでいるのか?」という疑問にスポットをあてる識者がいる。ジャーナリストの森健氏がその人である。森氏は先ごろ「グーグル・アマゾン化する社会」(光文社新書)を上梓し、Web2.0時代における1つの大きな問題点-----「情報の多様化による一極集中」という逆説的な現象について言及している。Web2.0によってネット上で進展する光と影の事象を踏まえながら、今後どのようにビジネスを展開していけばよいのか、森氏に話を伺った。
森健氏


-先ごろ刊行された「グーグル・アマゾン化する社会」では、Web2.0の事象を捉えて問題を提起されていますが、この本の要となる「多様化による一極集中」をテーマとして取り上げた理由について教えてください。

森健氏(以下、森)■
 私自身は、モノも情報も思想も多様化している状況は良いと思っています。ただし、「多様化されることで一極集中が起こる」という現象は明らかに(ネットの世界で)起きていることです。情報が広がっていく場合に、一人ひとりの人間がそれを摂取できる許容能力は限られています。かつては、個人レベルで追いきれない部分については、マスメディアが取りまとめたニュースや、新聞、雑誌などから情報を集めていたわけです。

 ところが、現在では新聞も雑誌もあまり買わなくなって、テレビやWebから情報を収集するようになってきました。そうなってくると、「いかに個人で情報を集められるか?」という問題が出てきます。Web2.0で利用されている技術には、パーソナリゼーション機能(注1)を備えたツールがたくさん現れていますが、いろいろな事例を調査していく中で、いまネットの世界で起こっている現象を「一極集中」というキーワードで考えていくと、すべて説明がつくのではないかと考えました。
 話題のキーワード「ロングテール」もその対極である「ヘッド」のほうは、一極集中の現象のひとつと言えますし。

(注1)パーソナリゼーション機能
Webで無数に広がる情報の中から、ユーザー自身が関心のある情報だけすくい上げる機能。パーソナリゼーション機能を備えたツールの代表的な例としては、Yahooの「My Yahoo!」や、グーグルのアラートによる告知機能などがある。グーグルやgooのニュースサイトでは自動的なパーソナライズ機能が働いている。これらの技術の裏には、情報を整理・分類するためのキーワードとして「タグ」という存在が不可欠なものになっている。森氏は自著「グーグル・アマゾン化する社会」の中で、「パーソナライゼーションの機能は、ユーザーサイド個人の関心事の一極集中でもある」と説明する



-Webの世界で起こっている一極集中という現象によって、いわゆる収穫逓増が起こり、「強いものはますます強くなる」とされていますが、個人だけではなくて、ビジネス的な観点からも同様なことが起こるとお考えでしょうか。

森■
 もちろんビジネスでも同じだと思います。ただし、私は(本の表題になっている)グーグルやアマゾンという企業を否定しているわけではありません。私自身もこれらの企業から提供される便利なツールを実際に使って恩恵を受けていますし。一極集中の問題は、結果として起こる逆説的な現象であり、ビジネス的には仕方のないことだとも考えられます。Web2.0的なビジネスでは、ユーザー参加型が基本となり、人を呼び込ませる「アフィリエイト」(注2)のような仕組みが重要になりますから、そういうアーキテクチャをつくれる企業が勝者になっていくわけです。とはいえ、いかに良い仕組みをつくったとしても、それを広げていくようなプロモーションもできなければ、うまくいかないと思いますが。

(注2)アフィリエイト
Webサイトやメールマガジンに企業サイトへのリンクを張り、ユーザーがそれを経由して商品を購入すると、サイトやメールマガジンの管理者に一定の手数料が支払われるシステム。ブログの急増により、アフィリエイトシステムは大きく発展している。アマゾンは、このアフィリエイトシステムを早い段階から巧みに取り入れ、ユーザーを誘導することでビジネスを成功に導いた。このほかにも、同社は後述するリコメンデーション機能や、ユーザー参加型のカスタマーレビューなどの開発によって、いまやWeb2.0的なビジネスを代表する企業と謳われている

グーグル・アマゾン化する社会



-自著において「スケールフリー・ネットワーク」(注3)に関して言及されていますが、Web2.0的なビジネスで企業が成功するためには、このような概念も意識する必要があると?

森■
 スケールフリー・ネットワークを意識するというよりも、結果的にそうなるということです。ネットワークにハブができて、それにリンクが張られ、分散しながらも自律的に拡大していく。これはビジネス上でもたいてい起こることですし、とりわけマネーや情報など形がなく、物理的障害がないものはそうなる傾向があります。それこそグローバルな状況ではますます大きなハブができるのではないでしょうか。したがって、どうすれば企業が成功するかは、かつてバラバシが提唱したように「成長があること」「優先的選択が起きること」「先行者利益があること」「適応度が高いこと」などの要素が挙げられると思います。ただ、こうした理論が分かったからといって、それで誰もが勝てるわけでもなく、これ以外にも別の要素がたくさんあると思います。

(注3)スケールフリー・ネットワーク
空港の運行路のように一部の空港に航空便が一極集中化し、そのハブ空港にリンク的にいくつもの集団(クラスタ)が連なるネットワークをいう。分散しながらも古い結節点(ハブ)に優先的選択性ができて、自律的に拡大する特性がある。神経ネットワークなど自然界でも多くの事例がある。米ノートルダム大学の物理学者であるアルバート=ラズロ・バラバシが、スケールフリー・ネットワークの構造を発見した



-スケールフリー・ネットワークにおいて、古いノード(結節点)で優先的選択が起こってハブができると、グーグルやアマゾン以外の後発となる企業は、もはやビジネス的に食い込む余地がなくなってしまうのではないでしょうか?

森■
 いや、食い込む余地はまだたくさんあると思います。最近たびたび話題になっている「YouTube」も後発ですから。不適切なコンテンツに対して警告できたり、多く視聴されるコンテンツにはhonorをもらえたりと、アーキテクチャがとてもうまくできていると思います。YouTubeでは著作権にひっかかるようなコンテンツもアップされていますが、ワーナー・ミュージック・グループと提携したり、その整備も始まっているようです。新興企業でも魅力的なものであれば食い込む余地は十分にあります。

 B2Bの観点では、グーグルのチルドレン企業にビジネスチャンスがあるのではないでしょうか。たとえば米国では、アドセンス(注4)だけをビジネスモデルとする企業が上場しようとしたりしています。アドセンスでの広告収入は大まかに出稿料金の2割がグーグルの儲けで、8割が広告掲載者の儲け、とグーグルで説明を受けました。であれば、相当数のアクセスがある企業であれば、アドセンスだけでもかなり広告の売上げが立ってくるようです。

 私の本でもひとこと書いていますが、グーグルの検索システムは、誰がWebで何をしようとも、その振る舞いがそのままグーグルの利益につながってきます(注5)。であれば、アドセンスというビジネスモデルだけで、チルドレン企業が上場しようということがあって然るべきでしょう。

(注4)アドセンス
グーグルの検索ワードに連動して表示される「アドワーズ広告」を、グーグル以外のWebサイトでも利用できるようにして、広告ビジネスを手軽かつ効率的に実現するシステム。Webサイトのコンテンツと関連性の高い広告が自動的に配信され、クライアントから支払われる広告費の一部がシェアされる仕組み。グーグルは、このアドワーズとアドセンスで、ほとんどの収益をあげる新しいビジネスモデルを確立した


(注5)
自著において、半強制的なレベルでユーザーの活動をWebに取り込む仕組みを構築できたことがグーグルの強みだと説く。グーグルを利用すればするほど、同社の利益につながる構造であり、情報を蓄積しながら富を拡大する




(構成・執筆 フリーランスライター/編集者 井上猛雄)

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