• 2025/06/13 掲載

アングル:伊藤園にトランプ関税の「くせ球」、大谷選手と米市場攻略

ロイター

photo
  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
Kentaro Okasaka

[東京 13日 ロイター] - 「コカ・コーラの赤いボトルみたいに、緑の『お~いお茶』も世界に広げたい。それが私の仕事であり、夢です」。ニューヨークの知人を訪れた本庄洋介氏は、緑色のラベルを張ったボトルを眺めながらこう言った。

それから約5年。日本の緑茶飲料最大手・伊藤園は、米国事業を統括する創業家出身の本庄執行役員が語った目標の途上にある。昨年から米大リーグ(MLB)、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手を広告塔に起用した。ニューヨークのタイムズ・スクエアからロサンゼルスのドジャースタジアムまで、「お~いお茶」を目にする機会が増えた。

国内市場が飽和する中、日本企業の多くは海外、とりわけ米国に活路を見いだそうとしている。伊藤園もその1つで、日本茶は健康志向や日本食ブームを追い風に需要が高まり、日本政府も有望な品目として輸出を後押ししている。

そこにトランプ米大統領が関税という「くせ球」を投げ込み、各社は対応を迫られている。2001年から現地で地道な販売活動を続け、「二刀流」復活が期待される大谷選手とともに今年から一気にペースを上げようとした伊藤園も、一部商品の現地生産を検討するなど関税の不確実性をどう攻略するか作戦を練っている。

<関税で値上げの苦悩>

伊藤園が大谷選手と契約を結んだのは24年4月末。25年4月期は原材料費高騰や広告宣伝費の先行投資がかさんで連結営業利益が前年比8.2%減の229億円だったが、その中でも米国は規模が小さいながらも伸びており、茶関連事業の営業利益は前年比20.7%増の22億円だった。

今年初めにMLBとも契約して以降は、私服姿だけでなくユニフォーム姿の大谷選手も使えるようになった。 春からはユニフォーム姿の写真をあしらった「お~いお茶」のボトルを発売し、ドジャースタジアムでも販売。ホームランを量産する大谷選手は投手としての復帰も計画しており、本庄大介社長は「次のラベルでは投げる姿も見せ、本来の二刀流を本格的にやっていく」と意気込む。

しかし、今年度は11%の連結営業増益を計画するのに対し、米国の茶関連事業の伸び幅は3.7%に縮小すると見込む。為替が以前より円高に振れていることや原材料高、さらに米国の関税に伴う仕入れ価格の上昇を織り込んだ。

「お~いお茶」はペットボトル入りもティーバッグも日本から輸出する。日本から供給した茶葉で生産したものを、台湾やタイからも輸出している。現在一律10%の相互関税が賦課されているが、7月上旬から予定通り24%、32%、36%の追加関税が発動されればさらなるコスト上昇につながる。

日本政府はトップバッターとしてトランプ政権と関税交渉に入った。しかし、真っ先に米国と妥結したのは英国で、日本は赤沢亮正経済再生相がこのところ毎週のように訪米し、交渉相手のベセント米財務長官らに関税の撤廃を求めている。日本側は15日からカナダで開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)で石破茂首相とトランプ米大統領が会談し、合意することも念頭に置いているが、「五里霧中」(赤沢氏)だ。

伊藤園が検討する関税への対応は、値上げと現地生産の2つ。小城真国際事業部長は、「今は税率10パーセントだが、(日本の上乗せ分が)24パーセントになったときに(商品を)値上げしないということはおそらくできない」と言う。一方、値上げは買い控えにつながる恐れがあり、「正直なところ、周りを見ながらだと思う。そもそも値上げが許されるのかというところもある」と話す。

現地生産は、もともとコロナ禍中に港湾作業の停滞などで海上輸送費が上昇したことを受けて検討していたティーバッグを先行させる。ペットボトル製品のほうが輸送費のコスト削減効果が大きいが、品質管理がより難しく、委託生産も選択肢にまだ検討中だという。

国内で大きな成長が見込めない日本企業の多くは、関税で不透明感が増す中でも米国市場を重視している。トランプ氏の大統領就任が決まった後の昨年11─12月に日本貿易振興機構(ジェトロ)が3162社を対象に実施した調査によると、今後3年間で最重視する輸出先として25.8%が米国を挙げ、比較可能な2016年以降で最も割合が高かった。

日本政府が4月にまとめた関税の影響に関する企業への聞き取り調査では、「米国の契約相手方から出荷延期の要請を受けた」(蓄電池関連製造装置)、「現地の輸入業者から値引き要請を受けている」(食品)などの声があったが、日本茶や高級牛肉のような日本独自の農産品は関税の影響があっても潜在力が高いと、ジェトロの石黒憲彦理事長はみる。財務省の貿易統計によれば、24年の緑茶の輸出額は前年比24.6%増の364億円で、うち米国が最大で44%を占めた。

ジェトロが設立した日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)の岩田知統事務局長は「健康志向で日本の和食は全世界的に人気が高まっている。それと同時にアルコール類の消費が世界的に低迷する中で、日本のお茶もすごく関心が出始めている」と語る。

<キッコーマンという先駆者>

伊藤園が米国に進出したのは日本人大リーガーの先駆者の1人、イチロー氏がシアトル・マリナーズでプレーし始めた01年。ニューヨークに現地法人を設立し、米国人の志向に合わせ有糖の茶も販売したが、近年は徐々に健康志向の高まりから、市場が無糖茶の方にシフトしてきた。

コカ・コーラのように、と本庄執行役員が話すのを聞いた日米交流団体ジャパン・ソサエティ(ニューヨーク)のジョシュア・ウォーカー理事長は新鮮に感じたという。「日本の企業は普通、その種の大志を持たないので意外だった」と話す。

関税というかく乱要因もあり、コカ・コーラのような存在になるのはまだ遠い。伊藤園によると、「お~いお茶」は米国で毎年15─20%のペースで成長しているものの、茶系飲料市場で同社のシェアは8位の2%だ。日本格付研究所の三浦麻理子アナリストは「消費者に認知してもらい、実際に手に取ってもらって定着するには短期間では難しく、すぐに大きくなるとは見ていない」と語る。

しかし、米国で成功した日本の食品メーカーには、しょうゆ大手キッコーマンという先駆者がいる。キッコーマンは米国へ進出してから半世紀、現地に3工場を建設し、今では米国の家庭に浸透した。

伊藤園の村瀬彰洋広報課長は「われわれもニューヨークに出してから20数年。まだまだ全ての人が食事と一緒にお茶を飲むかと言ったら、まだまだそこまではいけていないが、食事の時に一緒に飲むものは緑茶だ、しかも無糖だというのを根付かせたい」と語る。

(岡坂健太郎、John Geddie 編集:久保信博)

評価する

いいね!でぜひ著者を応援してください

  • 0

会員になると、いいね!でマイページに保存できます。

共有する

  • 0

  • 0

  • 0

  • 0

  • 0

  • 0

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
関連タグ タグをフォローすると最新情報が表示されます
あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます