- 2021/03/11 掲載
海外長期投資家は米金利上昇に動じず:識者はこうみる
市場関係者の見方は、以下の通り。
●米金利上昇は一時的、世界的な景気回復の恩恵受ける企業に着目
<DWS(フランクフルト)の最高投資責任者(CIO)、ステファン・クロイツカンプ氏>
国債利回りの上昇は注目に値する。昨年8月から上昇基調にあった米10年国債利回りは2月には、その上昇が顕著に加速した。この金利上昇がインフレ期待の高まりによるものではなく、実質金利の部分によるものだったことは驚きだった。
我々の見通しは、今年のインフレと国債利回りの上昇は一時的との前提に立ち、全体としては低金利環境が継続するとの見立てから、株式、社債、アジア債券、一部不動産市場を引き続き選好する。
マルチアセット運用における株式の地域別投資スタンスは、新興国、米国、スイスに強気で、ユーロ圏にはやや強気。日本株の投資判断は「中立の範囲内だがやや強気バイアス」を維持している。
グローバル目線では依然として景気敏感株のエクスポージャーを引き上げるステージと考えており、日本とユーロ圏が自然なチョイスとなる。世界的な景気回復の恩恵を受ける銘柄は、日本が欧州と比べても多い印象であり、また新型コロナウイルスのパンデミックも、日本はアジアと並んで欧州よりも抑制できている。堅固なバランスシート、コーポレートガバナンスの改善、政治的な安定性なども好ましい理由だ。
●リスク資産には十分な上昇余地、調整局面は「押し目買い」の好機
<ナティクシス・インベストメント・マネジャーズ(ジュネーブ)のグローバルマーケット戦略責任者、エスティ・ドウェク氏>
成長率とインフレ期待の上昇に伴い、先進国の国債市場ではロングエンドの金利上昇と債券売りが起きた。金利上昇は将来の収益に適用する割引率も押し上げるためグロース株の重しとなり、結果として景気敏感株へのローテーションが加速した。
一連の金利上昇は米国発で、それに他の先進国も追随した形だが、程度としては米国が最も顕著だ。我々は金利上昇は既に大方終わったと考えているが、利回りがオーバーシュートする可能性もあるため、ポートフォリオのデュレーションを短期化(長期債売り)し、デュレーションリスクの代わりにクレジットリスクを取った。
今回の金利上昇が株式市場にもたらした影響は、リフレトレードの加速だ。テクノロジー、公益、ヘルスケアといった割高かつデュレーションの影響を受けやすいセクターが売られた一方、金融、エネルギー、小売などの経済正常化や金利上昇の恩恵を受けるセクターは買われた。このため我々は、地域別ではバリュー寄り市場の欧州と日本を、セクターでは金融を、引き続き選好する。
ワクチン接種開始や財政刺激策がサポート材料となり、リスク資産にはまだ十分な上昇余地があるとの見解に基づき、我々は今後も市場が調整する局面があれば「押し目買い」の好機とみる。
●「債券タントラム」沈静化には時間必要、株式上昇相場まだ終わらず
<AMPキャピタル(シドニー)の投資戦略部門責任者兼チーフエコノミスト、シェーン・オリバー氏>
債券売り(金利上昇)が一部株式のバリュエーションに関する懸念をもたらし、米国、日本、中国などグローバルな株式売りにつながった。ただし今のところ債券売りの株式市場への影響は、テクノロジーなど昨年の勝ち組だったグロース株から経済活動正常化の恩恵を受ける金融や資源といった景気敏感株へのローテーションにとどまる。
「債券タントラム(かんしゃく)」の沈静化には今しばらく時間を要する可能性がある。債券は往々にして株式ラリーに遅れて動き、またその動きの中では行き過ぎも起きやすい。
しかしながら、雇用市場に残る緩みと基調インフレ率の低調さに鑑みれば、昨年3月を起点とする株式の上昇相場が終わったと結論づけるのは時期尚早だ。株式の益利回りと国債利回りのイールドスプレッドは依然としてまずまずの水準にあり、引き続き投資妙味がある。
(植竹知子 編集:伊賀大記)
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