アングル：密回避でボート需要拡大、コロナ禍の新たなレジャーに商機

白木真紀

［東京　２３日　ロイター］ - 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、密を避けられるレジャーとしてボートの需要が日本国内で高まっている。価格は最低でも１隻数百万円からで、維持費もかかるが、個人や家族で釣りなどを楽しむ人が増えているほか、海外旅行などに行けない富裕層がクルーザーを購入する動きもみられる。

＜受注増に供給追いつかず＞

静岡県に住む自営業の中村純一さん（４５）は昨年末、趣味の釣りをさらに満喫するため、初の自家用ボートとしてヤマハ発動機の「ＳＲ─Ｘ」を購入した。「週末ともなると、漁港やサーフ（砂浜）には見渡す限り人。遊漁船も満員御礼。釣れなくてもキャスティングする（狙った場所に仕掛けを投げる）だけで気持ち良かったのに場所取りやマナーの悪い人も目につき出した」ためだ。

中村さんはボートの操縦免許を５年ほど前に取得し、昨年から友人のボートを借りて練習してきた。同県内のマリーナで４月以降ほぼ毎週末、マイボートに乗っている。「場所や時間の制限を受けないでクルージングや釣りができるのは快適です」と話す。

日本マリン事業協会によると、新艇の中・大型ボート販売数（価格は４００―５００万円台から数千万円台）は、感染が初めて広がった２０２０年１─６月（上期）には外出自粛の影響で１９年同期から１５％減ったが、感染対策に慣れ始めた感染拡大第２波、第３波初期と重なる２０年７―１２月（下期）は５％増えた。

今年の上期は前年同期比７％増、コロナ前の１９年同期比では９％減っているが、同協会やマリン関連企業などの話によれば、免許取得者の増加でボート需要は急増しているものの、メーカー各社が生産能力を増やしておらず、供給が追いついていないという。国内ボート製造大手の担当者によると、新艇の納期は最低でも１年以上、２年かかることから、入手しやすさと価格の手頃さから中古艇も活況となっている。

マリン機器大手のヤマハ発動機でも今年上期は、船外機の国内販売が前年同期比２０％、ボートが１８％とそれぞれ伸長した。同社は、コロナ禍でも感染リスクの低いレジャーとして個人や家族で楽しむ人が増えているとみている。

同社の柳弘之会長は、ワクチン接種が進んで海外旅行に少しずつ行けるようになっても、コロナ前の状態に戻るには「時間がかかる。マリンレジャーの良さを実感する機会が増える」と語る。「ボート、マリンは高い遊びというイメージがあるのは確かだが、もっと普通の遊びにしていきたい。コロナ禍で少しそれが加速していくのではないか。顧客層を広げたい」と話す。

＜５００万円で改装＞

ボートやクルーザーは数百万円から数千万円、数億円するものもあり、維持費も高い。艇の大きさにもよるが、例えば、本体価格が４０００万円台の場合、マリーナでの年間保管料は約１２０万円、燃料や点検・修理代、保険料などもかかる。

それでも需要が拡大しているのは、旅行などの出費減少に加え、世界的に株価や暗号資産が値上がりしているのが一因だ。コロナの感染拡大で落ち込む景気や下支えしようと、各国が次々と打ち出した財政支援と金融緩和でマネーがあふれ、資産価格の上昇を通じて「持てる者」の懐を膨らませている。

あるレジャー事業会社の役員は「株式市場の活況で資産価値の増えている人、海外旅行や遠方の別荘、外食などに行けない代わりにボートを買う人が多くなっている」と話す。

トヨタ自動車の１隻数千万円クラスのクルーザー「ＰＯＮＡＭ」シリーズも堅調で、「１９年に比べ、２０年は販売・受注とも伸びた。現在も引き合いが強い」（同社広報）。

ボート市場の広がりは、新たな商機も生み出している。テラス用パラソルを手がけるＹＭＥＫ（東京・渋谷）は今年からボートの内装事業に乗り出した。同社の山形吉之助代表取締役によると、国内メーカーのボートを欧州メーカーのような内装に変えたいといった需要や、中古で購入したボートを改装したいといった要望があるという。７月には５００万円で改装を請け負った。

山形氏は、コロナ禍で完全隔離で旅行できるのはクルーザーくらいで「海上を走る２ＬＤＫ」の部屋のようなものと話し、「海外旅行に代わる新しいレジャーの姿かもしれない」と話している。