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  • 2007/03/02 掲載

気鋭のジャーナリストに聞く「NHK問題」のその後 / NHKと政治

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昨今、NHKを巡る問題は後を絶たない。紅白のDJ OAMA事件、受信料問題や政治介入など。昨年12月にちくま新書から発行された『NHK問題』の著者であり、気鋭のジャーナリスト武田徹氏にこれらの問題についてうかがった。

昨今、NHKを巡る問題は後を絶たない。2006年年末の紅白でのDJ OZMA事件。不払い運動が収まらない受信料に関しては、義務化に加えて値下げという話が浮上している。そして去る1月29日にはETV2001の政治介入を巡る裁判の控訴審判決が下ったばかりだ。昨年12月に発売された武田徹の『NHK問題』(ちくま新書)は単に現代のNHKを取り巻く問題を取り上げるに留まらず、公共放送としてのNHKが歩んできた道を辿り、さらに公共とは何か、ジャーナリズムとは何かを問いかける内容が記されている。メディア論、ジャーナリズム論に取り組んでいる武田徹氏に、本を書いて以降のNHKの状況を踏まえながら、あらためて公共放送とは何かというテーマについてうかがった。

NHKと政治

『NHK問題』(ちくま新書)』
『NHK問題』(ちくま新書)
――『NHK問題』は、昨今のNHKの問題点を近視眼的に取り上げるのではなく、前半部分で戦前のラジオ体操、戦後の三木鶏郎の政治風刺番組への政治介入を取り上げるなど、広い視点でNHKを捉えています。さらに。ライブドアや楽天による放送局の買収などを含む、もう少し大きな状況、つまり現在のメディアの問題全般を踏まえたものとして書かれたという印象をもちました。

武田●
本を書く直接のきっかけは、やっぱり2004年から2005年にかけて立て続けに起こったNHKの不祥事なんですよ。その頃にちくまの編集の方からNHKというテーマで本にしましょうというお話をもらったのです。ただ、そのときに海老沢(勝二前会長)がどうしただの、不正な経費請求発覚だのといった暴露本的な話が書きたいとは思わなかった。公共性やジャーナリズムの問題を考える上で格好の題材としてNHKを意識したわけで、これまでに積み重ねてきたメディア研究の一端だったり、僕自身がNHKに対して持っているNHK信仰みたいなものを含めて相対化したいという思いだったり、そういう時間をかけて温めてきたものを表に出す機会にしようと思った。結果として不祥事連発の時期より出るのが遅くなってしまったのですが、共同性や公共性というのは、この本に限らず、常に掘り下げてきたテーマでありますし、そういう意味では僕自身のテーマの集大成的な位置づけの本でもありますね。


――この本が出てからもNHKを巡るニュースは後を絶たないんですが、つい先日の1月29日にはETV2001を巡る裁判の控訴審判決が下りました*1。

武田●あの判決には期待権*2という概念が出てきてしまって、議論が少し違う方向にいってしまった部分もありましたが、やっぱり期待をさせて裏切った背景にあるのは政治との関係だと思うんですよ。安倍首相は「NHKが過剰に反応し、幹部が圧力と感じたから変更した」といっていますが、僕はこれはおかしいと思っています。裏を返せば過剰に反応せざるを得ない法制度、つまり予算の決定権が国会にあったり、放送の許認可権を総務省が握っているという事情がある。そうであれば、NHKも過剰に反応せざるを得ない場合もあるはずです。安倍氏も中川(昭一)氏も本当に政治介入がいけないと考えているのなら、そんなことがありえないような法制度改正が必要だと主張すべきでしょう。総務省による放送業界のコントロールを強めるような改正をすべきではない。


武田徹(たけだ とおる):ジャーナリスト
武田徹氏
――「期待権」もそうですが、この問題では番組の中立性の問題がクローズアップされたりして、議論が拡散していった感がありました。

武田●確かにETV2001の番組に中立性があったのかどうかという問題もありますけど、それは別途議論すべきです。命令放送問題*3のときにも、命令内容が拉致被害者報道の話だったので“それはもっともだ”という方向に流れた部分がありますよね。だけど僕はメディアの問題を考える場合は、内容と形式は別の問題として考えなければいけないと思います。もっと、大きな枠組みで、NHKが恒常的に政治介入されている仕組みについて注目するべきだと思います。


――これらの問題はNHKが官営放送への道を歩んでいる故の事象なのでしょうか? 『NHK問題』では“公共とは何か”という問題において、官=公ではないという話が何度も登場しますよね。

武田●島桂次が会長だった時代(1989年~1991年)にNHKは受信料依存から脱却するために、コンテンツの二次使用など様々な収入源を持ってゆく体制をつくろうとしていました。彼は経済的に自立できるNHKを目指したわけですが、それが予算を通じて政府に首根っこを握られている準・官営放送的状態から脱して、本当に放送の公共性を守るためのものだったとしたら世間の風評とは裏腹に彼は案外と評価できる人物だったのではと思います。しかし、これは、あくまで仮定の話で、本当にそう考えていたのかは島も故人となった今ではわかりませんし、一方で、島は政治部出身で特定の政治家ととても近い面もあったわけです。そして海老沢体制は島体制を駆逐しつつも、そうした政治との近しさは確実に引き継いでしまった。NHKの内部にはそうではいけないと考えている人はたくさんいるんですけど、まったくそれが議論として前面に出てくることは無いですね。それと、おかしいと思うのはNHK経営委員会ですよね。NHK会長や執行部の任命権を持っているのも、NHKの事業計画を決定するのも最高議決機関である経営委員会の仕事のはずなんですけど、もうマスコミに出て発言すらしなくなっています。


*1 ETV2001を巡る裁判の控訴審判決
NHKが2001年に放送したETV2001シリーズ「戦争をどう裁くか」という番組が、政治家の圧力によって改竄されたのではないかということを巡る裁判。判決ではNHKは「制作に携わる者の方針を離れて、国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度し、当たり障りのないよう番組を改変した」とされ、NHK及び、その下請け会社は計200万円の賠償金を原告のバウネットジャパンに支払うよう命じた。NHKはこれを不服として上告したため、以後この問題は最高裁に持ち越されることになる。

*2 期待権
上記控訴審判決の判決文によると「取材を受ける側には記事の出来上がりに対する"期待権"というものがある」と記述されている。

*3 命令放送問題 北朝鮮による拉致問題を重点的に扱うよう命じた菅総務相の発言から始まった問題。放送法の規定により、国務大臣はNHKの国際放送に対し、必要な事項を指定して国際放送を行うべきことを命ずることができるとされているが、これまで具体的な放送内容が言及されたことはなかった。

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