• 2009/06/15 掲載

【ドミニク・チェン氏インタビュー】「ヘコみ」と「なぐさめ」からはじまるWebコミュニティ「リグレト」

Webコミュニティ「リグレト」――その現在と未来を探る

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落ち込んだとき、誰かのちょっとした優しい言葉が欲しくなることはないでしょうか? そんなニーズに特化して生まれた、少し不思議でとてもやさしいWebコミュニティ「リグレト」。次々と利用者が増えていく中、今、そこで何が起こっているのか?リグレトを運営するディヴィデュアルの取締役、ドミニク・チェンさんからお話をうかがいました。

善意のロール・プレイを可能にする条件

――早速ですが、まず「リグレト」とはどういったサイトなのか、簡単にご説明いただけますか?

ドミニク氏■
「リグレト」という名前は英語の「リグレット」から派生した名前なのですが、その名前や、「ヘコむを楽しむWebコミュニティ」という キャッチコピーどおり、ちょっとしたネガティブな感情をみんなが持ち寄って、それをお互いでポジティブな思いに転換するサイトです。

 言うなれば、「リグレットしたことを楽しんでしまおう」という感じですね。もともとのコンセプト段階では「でも良かった.jp」といいまして、メンバーの友人が読んでいたライトな心理学の本にあった、夜、自宅に帰ってベッドに入る前に「今日は○○という嫌なことがあった。でもそれで~~だったから良かった」という文章を頭の中で反芻することで、嫌なことを全部いいこととして捉え直すというtipsをWebサービスにしてみたら面白いんじゃないか? という発想がスタートのきっかけでした。

【コラム】【ドミニク・チェン氏インタビュー】「ヘコみ」と「なぐさめ」からはじまるWebコミュニティ「リグレト」
ドミニク・チェン氏
――もともと、リグレトを運営するディヴィデュアルは「タイプ・トレース」という、テキストエディタ上で行われた操作のログを動画的に「再生」できるシステムを取り扱う会社だったわけですよね。

ドミニク氏■
そうです。タイプ・トレースは、PCの世界にどっぷりハマっている、いわゆる「アーリーアダプター」と呼ばれる方たちに面白がっていただけるものだったんですね。なので、その反対にあるようなものを、軽い気持ちで作ってみようということから、「リグレト」は生まれました。

 とはいえ、ネットのライトユーザーに向けたものにしようという気持ちは特になくて、自分たち自身も面白がりながら、勢いでガーッ!と作ってみたら、アーリーアダプターを通り越して、主婦の方や学生の方にまで届いたんです。そして気がつけば、僕たちが知らないコミュニティがそこにできあがっていたわけですね。

――もう少し小規模なものを想像されていたのですか?

ドミニク氏■
はい。いろんなライフイベントがある中で、リグレトに投稿されることは2つとか3つぐらいの種類だろうな、と想像していました。でも、蓋を開けてみたら、日常生活の中でふとヘコむことはもっとたくさんあったわけです。

 たとえば、「ティッシュ配りのお姉さんが自分と目を合わせてくれなかった」くらいのヘコみとかですね。とくに、10月に携帯電話版をリリースしてからは、いつでもどこでもみなさんヘコみを投稿してくださるようになって、何気ないヘコみが投稿される傾向はより進んでいます(笑)。

――ヘコみ限定のTwitter(ユーザーが自身の「つぶやき」を投稿するWebサービス。各人の「つぶやき」からゆるやかなコミュニケーションを生む)のような感覚でしょうか。

ドミニク氏■
比較されることは結構ありますが、リグレトはもっと反射的ですね。たとえば「あ」という一文字だけの投稿がされたら、そこから、レスで50音を続けていくような遊びが勝手に解釈されて起こっていくのがリグレトです。Twitterはあくまで自分をfollowしてくれている人たちとのつながりで、どんどん普及はしていっていますが、まだWeb・リテラシーの高い人たちの遊び場だと思うんですね。

 僕たちは、リグレトはあくまでロールプレイの場だと考えている点が違うと思っています。「ロール・プレイ・コミュニティ」という言葉を最近使っているんですけど、つまり、「お互いがお互いにとって善人として振る舞う」というルールだけがあって、それだけでつながっていく。加えて、サイトの雰囲気も手伝って荒らしづらい空気ができている。リグレトのほんわかしたデザインの中で荒らしっぽいことをやっても、なんとなく中和されてしまうみたいで、中には、みんなが優しい言葉を投げかけてくれたので更生した荒らしさんも何人かいるようです。実際に、更生した現場を目撃したときは、僕たちもウルッとくるくらいでした。

――「ロール・プレイ・コミュニティ」というのは面白いですね。

ドミニク氏■
よく「『性善説』だよね」というように言われたりもします(笑)。ですが、決してそういうわけでもないと自分たちとしては思っているんです。「空気を読む」ことが求められる日本の現実社会では、日常生活で「いい人を演じる」ということはすごく敷居が高いことだったりしますよね。

 たとえば、これは友人が言っていたことですが、「電車やバスで席を譲る」ということがしづらい、と。どうしてかというと、いい人を演じている自分が注目されることが非常に恥ずかしいからだ。でも、「あのとき席を譲れなかった」みたいなことの積み重ねが、実はみんなストレスとして溜まっているのではないでしょうか。それがリグレトという場なら、匿名で、お互いのプロフィールが一切わからないので、安心していい人として振る舞うことができる。ようするに、ヘコんでいる人だけではなく、ヘコみに対してなぐさめている人にとっても自浄作用がすごくあるようですね。

――なるほど。インタフェースのデザインが持つ雰囲気と、参加者が匿名であることによって、荒らしが自然と抑制されているというのは、サービスを立ち上げる段階で、かなり意識的に設計されたものなのでしょうか?

【コラム】【ドミニク・チェン氏インタビュー】「ヘコみ」と「なぐさめ」からはじまるWebコミュニティ「リグレト」
Webコミュニティ「リグレト」ロゴ
ドミニク氏■
匿名性の部分を大切にしようという思いは当初からありました。というのも、お互いがお互いの履歴をトラッキングできてしまうと、心理学で「好意の返報性」と呼ばれている、「好意に対しては返報しなければならない」という意識に基づいた儀礼的コミュニケーションが渦巻いて、サービスを利用することに疲れてしまう。

 先行しているWebサービスにそのような事例があるという話を見聞きしていたので、リグレトは最初から「ヘコんでいます、なぐさめてくれました、それにありがとうを言う」というシンプルな三段論法で区切りをつけてあげて、コミュニケーションのインフレを起こさないようにしよう、と考えていたからです。

 匿名性以外の点だと、「ありがとう」を送る際に、フリーワードで送れないようにしているのもその一環ですし、「ヘコみ」も「なぐさめ」も50字で文字制限を掛けているのもそうです。50字というのは、いろいろ試行錯誤した中でチューニングしていった文字数で、そこそこ複雑なことも書けるし、俳句のように、非常に濃縮させて、読み手の想像力を刺激することを書いたりもできる。

 あとは、ユーザーにとってのアーカイブ性も意図的に低くしていて、最近、友達に紹介するためのパーマリンク機能は追加したのですが、検索はできないようにしています。なので、Googleなどのキャッシュにも残らないんですよ。炎上したログやキャッシュが残ると考えると、気軽に投稿できませんからね。

――非常に配慮が細やかですよね。

ドミニク氏■
「感情を扱うサイトである」ということは最初の段階で意識したので、ユーザーの方が安心して自分の感情を吐露できるようにするために、ひとつひとつのことを積み重ねていったんです。それで結果的に今の形ができたのであって、最初から強く「意識的に設計している」というよりは、徐々に発見していったという感じです。

 まとめると、「すべてを見せない」「解像度をあえて低くする」ということを重視していると言えるでしょうか。Webの、コンピュータの世界では「すべてアーカイブをとっておく」ということができるわけですけれど、これは人間主体じゃない考え方なのかな、と最近思うようになってきているんです。もちろん、タイプ・トレースに見られるように、人間の記憶容量の限界と、コンピュータのアーカイブ性の間には相互補完が存在していることは前提とした上で、ですけれども。

 なので、リグレトでは負の感情を扱っている分、人間の自然に近い解像度……僕は「忘却能」って呼んでるんですけど、自分がヘコんだことを忘れていくのと同じ速度で、アーカイブの射程もフェードアウトしていくのがいいのではないか? と考えています。結果的にそこの部分をユーザーの方たちには評価していただけているように感じていますね。

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