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  • 2022/01/08 掲載

原田マハ×ヤマザキマリ対談:美術館は「幸せになりに行く場所」である

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美術館は敷居が高く特別な場所で、気が張ってしまうという人も多いかもしれません。ふらっと美術館を訪れるようになるにはどのような心持ちでいればいいのでしょうか。作家の原田マハさんと漫画家であり随筆家としても活躍するヤマザキマリさんに、気軽にアートと親しみ、リラックスして美術館を楽しむためのすべを聞いてみました。

執筆:原田マハ、ヤマザキマリ

執筆:原田マハ、ヤマザキマリ

原田マハ
小説家。1962年東京生まれ。関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森ビル森美術館設立準備室在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館にて勤務。2005年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞しデビュー。2012年『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞、R-40本屋さん大賞などを受賞、ベストセラーに。2016年『暗幕のゲルニカ』がR-40本屋さん大賞、2017年『リーチ先生』が新田次郎文学賞を受賞。その他の作品に『本日は、お日柄もよく』『ジヴェルニーの食卓』『デトロイト美術館の奇跡』『たゆたえども沈まず』『常設展示室』『風神雷神』など多数。

ヤマザキマリ
東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞 受賞、手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。著書に『プリニウス』(新潮社、とり・みきと共著)、『オリンピア・キュクロス』(集英社)、『国境のない生き方』(小学館新書)、『ヴィオラ母さん』(文藝春秋)など。

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※本記事は『妄想美術館』を再構成したものです。

美術館とアートが持つ雰囲気に寄り添う

ヤマザキマリさん(以下、ヤマザキさん):私は画学生だったので、美術館に模写をしに通っていたというのはありますが、長きにわたるイタリアでの生活で、美術館は気軽に行く場所だと感じています。たしかに美術館は空間的にも質感としても、ふだんの日常とは完全に線引きされている別空間で、たとえばイタリアの古代、ルネサンス時代の美術品を見ると、タイムスリップしているような感覚になる。でも厳かな気持ちになって心正して行く場所でもなくて、そこに展示されているものにまったく関心がなくても、とりあえず美術館に行ってみるのがいいですね。

原田マハさん(以下、原田さん):いままでアート小説を書いてきたプロセスのなかでも、敷居が高いというイメージからアートを避けている方が多いように感じています。私はいつも「アートは友だち」だとみなさんにお伝えしていますが、それこそ美術館は友だちの家。もっと気軽に足を運んでいただきたいですね。ただ友人の家を訪れるとはいえ、親しきなかにも礼儀ありで、その人の醸し出す雰囲気や空気感にリスペクトを忘れないこともすごく重要です。

ヤマザキさん:美術館はコンサートホールと同じ空気を感じますね。オーケストラのコンサート会場に行くと、ふだんどおりの自分ではいけない、ここにはここのルールがあって、面と向かって芸術と向き合う姿勢を問われている気がするんです。

原田さん:クラシックを聴きに行くときと、ロックのフェスに行くときでは、こちらの心構えが違いますよね。そういう場のコードや、向き合う作品を思いやりながら、一方的にこっちを押し付けるのではなくて、相手のことも考える。この人の絵はすごいエネルギーを持っているから、その気持ちに自分を同調させるとか、この人はすごく静かな気配を持った人だから、その気配のなかに自分を沈めるとか、対峙するアートによって、自分も少し波長を合わせていくのが、美術館の楽しみ方のひとつかもしれません。

ピュアな心でアートを鑑賞

原田さん:ほどよい緊張感を持ちながら美術館へ赴くのは素敵なことですが、やっぱり作品と向き合うときは、リラックスしているといいですね。素で作品を鑑賞するというのは実に楽しいことで、なんの知識もなく、アーティストがつくった作品と向き合うと、ピュアに楽しめる。この人はルネサンスの偉大な画家だとか、近代美術の礎をつくった人だとか、そんなことは考えず、子どものような純粋な心のままで楽しむと、新しいアートの世界を受け入れられるんじゃないでしょうか。

ヤマザキさん:初心者の方にまずお伝えしたいことは、展示されているものをわからなきゃいけないという義務感を一切、払拭してほしいということ。ただ美術館をふらふらと歩いているだけでも、目に留まるものがありますし、この場所は居心地がいいなと感じられる空間がある。なにかいいなあと感じられるものがあったら、立ち止まってじっくり鑑賞してみればいい。

 絵描きの立場の私からすると、描き手の解釈や価値観と必ずしも一致する必要なんてなくて、ただ絵を観て癒されたと感じていただけるのが一番だと思います。

原田さん:アートはビジュアルですから、名前すらわからなくてもビジュアルそのものを楽しんで、自分の心になにを語りかけているのか感じとるのが大事ですよね。

 そこからもう一段進むと、アーティストと友人関係ができて、相手のことをもっと知りたくなるじゃないですか。どうしてこの作品がここにあるのか、彼らになにがあったのか? 知れば知るほど、画家や作品に親しみが湧いてきますし、友だち関係も深まっていきます。まず相手を受け入れるということ、それはアートと友情を深めるだけじゃなくて、人間世界のなかでもすごく当てはまることですよね。

ヤマザキさん:アートというのは、多様性を受け入れ、自分の世界を拡げる手がかりになりますからね。

原田さん:あと美術館に行くときには少し服にも気を遣っています。WOWOWで放送された、美術館をご紹介する「CONTACTART」でもお話ししましたが、自分の後ろで作品を見ている方の邪魔にならないような服を選んでいます。もちろん華やかなファッションで人の目を喜ばすこともあるでしょうが、私自身は作品や美術館と同調していたくて、作品が際立つように、モノトーンの服で行くことが多いですね。

ヤマザキさん:そこは私はまだツメが甘い。Tシャツとジーンズのようなラフなスタイルにしがちで、学生時代の習慣が抜けてないです。

【次ページ】美術館とは幸せになりに行く場所

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