- 2022/12/12 掲載
アングル:オフィス出社は復活するのか、これからの「働き方」
妥協策として広く受け入れられつつあるのは、週の何日かオフィスで勤務するという出社と在宅勤務のハイブリッド形式だ。だが、多くの労働者は抵抗を続けており、一部企業はフルタイムでのオフィス勤務への復帰を求めている。
ニューヨーク市の例を見よう。州政府のデータによれば、特にこの夏以降は、富裕層の暮らす地域やビジネス街では地下鉄の利用者数が増えており、オフィスに通うホワイトカラー労働者が増加したことがうかがわれる。だがそれでも、10月の時点でコロナ禍前の約67%に戻っただけだ。ここ数カ月の地下鉄利用者数は、平日よりも週末の方がコロナ禍前に近づいている。ロンドンのデータを見ると、地下鉄の利用者数はコロナ禍前のレベルの80%強となっている。
こうした職場の変化を受けて、オフィス労働者向けのビジネスも様変わりしている。米金融大手JPモルガン・チェースが9月に発表したレポートによれば、オフィス向け不動産では賃貸期間の短縮と労働環境の柔軟化が世界的に進んでいるという。ロンドンやニューヨークなどの都市では、企業がオフィスのダウンサイジングとともに上昇志向を強めている。高級不動産への需要が拡大する一方で、築年数の古いオフィスビルは苦戦しがちだ。
不動産以外でも、オフィス労働者相手のビジネスの様相は一変している。「パートナーシップ・フォー・ニューヨークシティ」のキャスリン・ワイルド最高経営責任者(CEO)によれば、ニューヨークではこの1年、コロナ禍で撤退した数よりも多くのビジネスが新たに誕生しているが、その地理的な分布は以前とは異なるという。オフィスの大部分が立地するマンハッタンでは店舗が減っているが、クイーンズやブルックリンといった居住者が多い区では逆に増えている。
<職場の変化が持つ意味>
職場がどう変化していくかには、重要な意味がある。それ次第で、コロナ禍のもとで仕事を離れてしまった人々、たとえば育児や介護を主に無報酬で担っている女性や、コロナ後遺症に悩まされる労働者、さらに高齢労働者が復帰できるかどうかが左右される可能性がある。ひいては、多くの国の経済やセクターを悩ませている労働力不足にも影響が出てくるかもしれない。
経営者がどのような職場モデルを選ぶかによって、労働者の目に映る企業の魅力は変わってくる。特に、柔軟性の向上やワークライフバランスの改善を求める若い世代の場合は影響が大きい。
ハイブリッド形式を採用すれば企業は不動産コストを削減できるかもしれないが、生産性低下や協働効果の喪失から、後進の指導や企業文化をめぐる懸念に至るまで、別のコストが生じる可能性もある。金融など規制の厳しいセクターにおいては、リモートワークによってコンプライアンス(法令遵守)面で問題が生じる恐れもある。
また職場の性質によっては、コロナ禍によって表面化した格差を悪化させてしまいかねない。リモートワークが不可能な最前線の業務では人種・民族的なマイノリティの比率が人口比よりも高く、健康上のリスクも大きくなっている。こうした人々にとっては大きな変化は起きていない。
<来年の展望は>
ホワイトカラー労働者の業務もハードになっている。マイクロソフトが9月に発表したレポートでは、同社が提供するオンライン会議システム「Teams」の平均的ユーザーの場合、1週当たりの会議の回数は、コロナ禍が始まって以降全世界的に153%増加した。労働者の42%は、他の業務をこなしつつオンライン会議に出席している。それでも同社が調査した企業リーダーの85%は、ハイブリッド形式の労働環境における従業員の生産性には疑問があると感じている。
これからの1年で、今後の働き方を決定する主導権を握るのは誰なのかが決まってくる可能性がある。景気拡大と人手不足により、労働者の発言力は増している。リセッションに陥れば、その面では反動が生じるだろう。
前出のワイルド氏は、「今の職を捨てるのはそう簡単ではなくなるだろう。そうなれば、最低週3日はオフィス出社といった条件に抵抗しにくくなる。その方向に進んでいるように感じる」と指摘した。
(翻訳:エァクレーレン)
*動画を付けて再送します。
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