- 2023/05/11 掲載
物価目標実現、上下にリスク 当面は緩和継続=4月日銀会合意見
[東京 11日 ロイター] - 日銀が4月27―28日に開いた金融政策決定会合では、2%物価目標の実現が視野に入ってきたものの「上下双方向にリスクがあり、当面は金融緩和の継続が適当だ」との意見が出ていた。また、政策の先行き指針の文言修正を巡り、内閣府の出席者が丁寧な説明を求めていたことがわかった。日銀が11日、決定会合で出された主な意見を公表した。
植田和男総裁の下で初めてとなったこの会合では、金融政策の現状維持を全員一致で決めた。
会合では、今年の春闘では想定以上の賃上げが進む見通しだが、名目の賃金上昇率が物価対比で十分に高まるよう「金融緩和を通じて賃上げのモメンタムをしっかりと支え続けることが必要だ」といった意見が出された。2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスクより、「拙速な金融緩和の修正で2%実現の機会を逸してしまうリスクの方がずっと大きい」との意見もみられた。
<フォワードガイダンス修正、内閣府出席者「丁寧に説明を」>
政府が5月から新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを5類に変更することに伴い、日銀は金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)のうち、「新型コロナウイルス感染症の影響を注視」との文言を削除した。さらに、政策金利の引き下げ余地を示した1文も削った。
決定会合では、感染症の影響が低下したとはいえ、内外経済や金融市場の不確実性はきわめて高く、「粘り強く緩和を続ける」、「必要に応じて追加緩和措置を講じる」との姿勢は不変だと強調すべきだとの意見が出された。フォワードガイダンスの修正が「金利引き上げ容認ととられないように、慎重を期すべきだ」との声もあった。
内閣府の出席者は、記述変更の趣旨を「対外的に丁寧に説明することが重要だ」と述べた。
<賃金・物価に強気な声目立つ>
決定会合で議論され、公表された「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)では、新たに2025年度の経済・物価見通しが示されたが、生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)、生鮮食品・エネルギーを除くCPIともに政策委員の見通し中央値は前年度比プラス2%に届かなかった。
ある委員は、高い物価上昇率が続く可能性にも当面注意していく必要があるが「2%をかなり下回ったまま戻らなくなるシナリオの方が中長期的にはより重要」と指摘した。
もっとも、今年の春闘の強い結果を受け、決定会合では賃金や物価に強気な意見が目立った。想定以上のベア実現について、昨年来の大幅な輸入物価高を背景に「企業の物価や賃金に対するノルム(社会規範)の転換に向けた動きがみられていることが大きい」といった指摘や、「人手不足が強まる中、来年も高い賃上げが期待できる」との声も出た。
ある委員は、賃金と物価の好循環の兆しが表れはじめており「政策対応が後手に回らないよう、基調判断を適切に行う必要がある」と述べた。金利の急変動を避ける観点から「物価や賃金の動向を謙虚に見つめ、早すぎず遅ぎず対応することが必要だ」との指摘も出された。
その一方で、ある委員は今年の賃上げ率は「一時的な増加という面もあるとみられる」と指摘、物価上昇に負けない賃上げの持続には、企業の国際競争力や稼ぐ力の強化が必要だと主張した。
<YCC、「円滑な金融阻害」との声>
植田総裁初の決定会合を巡り、イールドカーブ・コントロール(YCC)の修正・撤廃観測がくすぶっていたが、日銀はYCCを維持し、長期金利の変動幅はプラスマイナス0.5%で据え置いた。
会合では、足もとでイールドカーブのゆがみの解消が進んでおり「イールドカーブ・コントロールの運用を見直す必要はない」との指摘が出された。一方で、YCCが「円滑
な金融を阻害している面も大きい」として、今後の債券市場サーベイ結果に注目しているとの声もあった。
会合では、過去25年間にわたる金融緩和策を対象に多角的にレビューを1年から1年半程度かけて実施することも決めた。今後も効果的に金融緩和を継続していく上でレビューは有益だが、客観的で納得あるものとするため「特定の政策変更を念頭に置かずに、多角的に行うべきだ」との意見が出された。
(和田崇彦)
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