- 2023/08/24 掲載
アングル:先進国で強まる利上げ打ち止めムード、インフレ収束に不安も
中銀幹部らは1年前、インフレ率を速やかに目標値まで引き下げるには、市民から信頼を得る必要があるとのメッセージを発していた。物価上昇圧力を根絶するための「最後の1マイル」にはなお数年を要するとみられる以上、今の時点で緩和ムードに転じるのはこうした発信と矛盾するように見える。
とはいえ、24日から米ワイオミング州で開かれるカンザスシティー地区連銀主催のシンポジウム、ジャクソンホール会議では、追加利上げよりも金利据え置きへと議論がシフトしそうだ。背景には、インフレ率が来年いっぱい高止まりすることに目をつぶってでも経済を確実にソフトランディング(軟着陸)させたい、という意向がある。
インフレ率が目覚ましく下がったことを踏まえれば、こうした議論のシフトは一見妥当なようだ。昨年多くの先進諸国で10%前後だったインフレ率は現在、その半分程度に収まり、さらに下がると見込まれている。
しかし同時に、欧米双方で労働市場は極めて引き締まっている。これは経済学的に考えて逆説的であり、インフレ率は金融政策の効果ではなく、それとは無関係に下がっているのではないか、との見方も生じている。
本来なら、労働市場に緩みが生じて賃金上昇圧力が緩和されるはずだった。しかし企業は高い利益率を享受し、熟練労働者を引き留めておく余力もまだあるため、予想されたような人員削減に着手していない。
スタンダード・チャータードのG10通貨調査責任者、スティーブ・イングランダー氏は「インフレ率が低下していても、失業率が横ばいもしくは低下している現状では、FRBは政策が効果を発揮したと確信することはできない。世界的な需要の落ち込み、あるいは金融政策とは無関係な国内要因により、運良くインフレ率が低下しているだけかもしれない」と述べた。
<失業率は上昇せず>
米国の失業率は今年、おおむね3.5%前後で推移しており、ユーロ圏では過去最低の6.4%に下がっている。英国、オーストラリア、ニュージーランドの失業率は直近の最低水準からわずかに上昇してはいるが、過去平均に比べればまだ大幅に低い。
問題は、労働市場の悪化を伴わない大幅なディスインフレは、標準的な経済学とも過去の経験則とも矛盾することだ。例えば米国のインフレ率は昨年、9%強から3%前後まで下がったが、最後にここまで大幅に低下した1980年代初頭には、失業率が10%超まで急上昇している。
インフレ率と失業率のかい離を踏まえ、ドイツ連邦銀行(中銀)は今週、他のユーロ圏中銀に対し、まだ厳しい仕事が残っていると警鐘を鳴らした。
連銀は「インフレ率はいずれにしても予想より長期間にわたって中銀目標を上回り続けるだろう、という印象が根付いている。高い賃金上昇圧力が続いている以上、インフレを抑制し続けるのは難しくなるかもしれない」と指摘した。
とはいえ、大幅な追加利上げを求める声は乏しい。欧州で既にみられるように経済指標が悪化すれば、そうしたムードは強まる一方だろう。
イングランド銀行(英中央銀行)はまだ利上げ余地がありそうだが、米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)は、あと1回利上げが必要かどうかを議論しているようだ。オーストラリアとニュージーランドの中銀は既に利上げを終了した可能性がある。
インフレ率が来年いっぱい、もしかすると2025年に入っても中銀目標を上回り続けると予想される中、こうした姿勢は中銀の決意に疑念を生じさせている。
ダンスケ銀行のPiet Haines Christiansen氏は「市場はECBが2%の物価目標を達成すると信じていない。ECBがインフレのオーバーシュートを許容することを織り込んでいる」と語った。
しかし大幅な追加利上げを行ってリセッション(景気後退)や労働市場の悪化を招くのを避けたいなら、金利が長期にわたって高止まりすることは避けられないだろう。
(Balazs Koranyi記者)
関連コンテンツ
関連コンテンツ
PR
PR
PR