- 2024/02/29 掲載
アングル:日本株高、海外勢の円売り需要惹起 投機追随で影響広範に
[東京 29日 ロイター] - 為替市場では、年初から続く日本株高と円売りフローの関係が注目されている。海外投資家が保有する日本株の評価益拡大に伴い、為替リスクのヘッジ(回避)目的で大規模な円売りが出されており、その規模は10兆円を超えるとの推計もある。投機筋の思惑を巻き込みながら、円は対ドルだけではなく、広範な通貨に対して歴史的な安値圏に落ち込んでいる。
<日本株10%上昇で8兆円の円売り需要>
日経平均株価の史上最高値更新により、為替市場で注目が高まってきたのが、海外投資家による巨額の円売りだ。
日本株を買い入れる際、為替変動の影響を避ける戦略を採用する海外勢は、保有する円資産額、つまり円買いポジションに応じて、円を売り建てて影響を相殺する。
思惑通り株価が上昇すれば評価額が増えるため、その分、さらに為替ヘッジも積み増す必要が生じる。この追加的な円売りが、最近の日本株高と円安の同時進行を支える一因となっている。
海外投資家の為替売買やヘッジ状況などを表すデータはないが、シティグループ証券通貨ストラテジストの高島修氏によると、日本株投資で為替ヘッジを採用する海外投資家はおおむね3割程度。
外国人持ち株比率や東証時価総額などを考慮して試算すると「株価が10%上昇すると、8.3兆円ほどの円売りが発生する計算になる」という。
高島氏はこの推計を「議論を深めるための参考に過ぎない」と断るが、日経平均の直近高値は27日日中につけた3万9426円と、昨年末から18%上昇した水準にある。推計をそのまま当てはめると、年始から15兆円近い円売りが発生した可能性があることになる。
15兆円規模の円売りとは、年間で過去最大の貿易赤字を記録した2022年の20兆3295億円には及ばないものの、直近発表の1月の月間貿易赤字額の8カ月分に相当する。
<投機の円売り対ドル以外に、介入警戒強く>
円安圧力が一段と高まる一方、円買い介入への強い警戒感から、ドルはこの半月ほど150円台を上限に値動きが鈍っている。市場が想定する政府の「防衛ライン」は152円前後で、円売り戦略を採ることが多い個人投資家も「150円後半から151円台は一転して売り越しへ転じる」(FX会社幹部)という。
その結果、行き場を失った投機の円安圧力は、対ドル以外にあふれ出る形となってきた。
今週までにスイスフランが171円後半と史上最高値、カナダドルが111円台と17年ぶり高値を更新したほか、ポンドは191円前半、豪ドル99円前半、NZドル93円半ばと、ともに2015年以来9年ぶり高値をつけた。ユーロも162円台と3カ月ぶり高値圏を推移している。
りそなホールディングス、シニアストラテジストの井口慶一氏は、「日銀連続利上げ観測の後退などで、円は主要通貨間で最弱との見方が一般的となっている。介入警戒でドルの上値が伸びないため、投機の円売りが他通貨に逃げやすくなっている」と解説する。
米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめたIMM通貨先物の非商業部門の取組状況によると、投機の円売りは今月20日時点で、6年ぶり高水準を記録した昨年11月以来の水準へ膨らんだ。
市場では「巻き戻しで円が買われる場面があれば、円売りのいい仕込み場になる」(外銀関係者)との声も出ている。
(基太村真司 編集:橋本浩)
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