- 2025/05/30 掲載
焦点:トランプ関税差し止め命令に油断は禁物、手を替え品を替え継続か
CITの判決を巡って二審にあたる米連邦巡回区控訴裁判所は29日、判決の一時停止を命じた。そのためIEEPAに基づく関税措置は当面の間継続され、対外的な交渉上の圧力としての効力を維持している。
オハイオ州コロンバスの法律事務所トンプソン・ハインで米・カナダ貿易を専門とする弁護士のダン・ユツォ氏は「これはほんの序章にすぎない。トランプ政権には、CITの判決で示された境界を踏まえて大統領令の枠組みを再構築するなど複数の選択肢がある」と述べた。
CITは今回の判決で、IEEPAに基づく懲罰的関税の導入でトランプ氏が法的権限を逸脱したと断じた。
IEEPAの最大の利点は、その迅速性と広範な適用範囲にある。通常の関税導入手続きに必要な長期の貿易調査や意見公募のプロセスを回避することが可能で、1月20日の大統領就任後数週間以内に関税を導入したいというトランプ氏の意向に合致していた。
以前から存在する関税導入手段としては、2018年と19年に中国製品への関税に使われた、海外の不公正な貿易慣行への制裁措置などを定める「通商法301条」や、鉄鋼・アルミニウム・自動車関税に使われた、安全保障を理由に輸入制限を課せる「通商拡大法232条」などがある。
ピーター・ナバロ大統領上級顧問は記者団に対し、仮にIEEPAが最終的に使用できなくなったとしても、トランプ政権は通商拡大法232条や通商法301条、さらにはこれまで一度も使われたことのない他の2つの貿易措置─1930年関税法338条および1974年通商法122条─を活用できると主張。「つまり、たとえ今回敗訴したとしても、われわれは別の方法でやると考えてもらって構わない」と言い切った。
<トランプ氏の権限一段と拡大も>
通商法第122条はトランプ氏に対して、国際収支の問題に対処するため、またはドルの大幅な下落を防ぐために、最大15%の関税を150日間課す権限を与えている。ただし、この措置を150日以降も継続するには議会の延長承認が必要となる。
皮肉なことに、通商法122条は1971年にリチャード・ニクソン大統領がIEEPAの前身となる「1917年敵国通商法」に基づいて世界的に10%の関税を課したことへの反動として制定された経緯がある。
ナバロ氏はブルームバーグテレビで「全体的に見ればIEEPAを使ったわれわれの法的立場は非常に強いと考えている。しかし、裁判所が言っているのは、もしIEEPAで負けたとしても他の方法でやればよいということであり、つまり本質的には何も変わっていない」と語った。
4月2日の相互関税発表前に一部の専門家は、トランプ氏が関税導入を正当化するために制定から85年を経た関税法338条を使うと予想していた。この法律は脅しとして使われたことがあるが、実際に発動されたことはなく、1940年代以降、公的記録からはほぼ姿を消している。338条を使うとトランプ氏は、米国製品を差別的に扱い、他国製品と比べて「不利な立場」に置くような国からの輸入品に対して15%から最大50%までの追加関税を課すことが可能になる。
ユツォ氏は、トランプ氏が関税権限を強めるために議会に再度働きかける可能性もあると述べた。そうなればこうした関税は法的により持続可能なものとなり得る。ユツォ氏は「トランプ氏の権限がむしろさらに強化され、CITの判決を歓迎している人たちは『ぬか喜び』に終わるかもしれない」と語った。
トランプ政権1期目に貿易顧問を務め、現在はワシントンの法律事務所エイキン・ガンプのパートナーであるケリー・アン・ショー氏は、CITや他のIEEPA関連裁判の判決がどんなものであっても、トランプ氏が関税戦略を簡単に放棄することはないと見ている。「トランプ政権が、非常によく似た、あるいは同じ内容の措置を正当化するのに使える他の法的根拠はふんだんにある。だから企業やクライアント、政府筋と話す際には、たとえ全く同じ形ではないにせよ、これらの関税措置は何らかの形で継続すると考えるのが最も安全だと伝えている」という。
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