- 2025/07/10 掲載
揺らぐ「ドル基軸」体制=トランプ関税、米信用に傷―試練の国際金融秩序
【ワシントン、ニューヨーク時事】世界経済の中心を担ってきたドル基軸体制に動揺の兆しが出ている。トランプ米政権が高関税を次々と発動する中、ドルの下落基調が鮮明になっている。大型減税による債務膨張、連邦準備制度理事会(FRB)への度重なる利下げ要求も米国の信用を傷つけかねず、国際金融秩序は試練にさらされている。
1月のトランプ政権発足以降、主要通貨に対するドルの強さを示す「ドル指数」は一貫して低下。トランプ大統領がほぼすべての貿易相手国・地域に対する相互関税を発表した4月2日以降、ドルの弱さが目立っている。
オブストフェルド元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストは6月の講演で、高関税は「米国の貿易を確実に縮小させる」と明言。「ドルの国際的な役割を制限する」と警鐘を鳴らした。
トランプ氏のFRBに対する執拗(しつよう)な利下げ要求もドルの信認に打撃を与えかねない。インフレ再燃を警戒し、金融緩和に慎重なパウエルFRB議長を「まぬけ」と罵倒し、「すぐ辞めろ」と迫る。あからさまな政治圧力は、「ドルの番人」であるFRBが築いた市場の信頼をむしばむ。
4日に成立した大型減税関連法も米国債の信用を圧迫する。落ち込みが見込まれる税収を補う財源が不十分で、国債発行が膨らむことが不可避とみられるからだ。格付け大手ムーディーズ・レーティングスは5月、財政悪化を理由に米国債格付けを最上位から一段階引き下げた。
金融市場では関税政策に関し「トランプ氏の横暴な振る舞いへの警戒感でドル安が続いている」(日系証券)との受け止めが広がる。減税に伴う債務拡大リスクも「ドルを積極的に買う動きにはならない」(同)との見方につながっている。
ベセント財務長官は米テレビで「為替相場はさまざまな要因で上下する」と強調。米国が長年堅持する「強いドル政策に何の変更もない」と訴えた。だがオブストフェルド氏は、トランプ氏の政策が「ドルの中心的役割を脅かす」と言い切る。
BRICSと呼ばれる中国やロシアなど新興国グループは、米国の金融制裁回避を狙いドルに代わる決済手段を模索する。トランプ氏は8日、「ドル基軸体制を失えば世界大戦に負けるようなものだ」と危機感を示した。「ドルは王様だ。地位に挑戦すれば大きな代償を払うことになる」と、関税をちらつかせて新興国の動きをけん制した。
【時事通信社】 〔写真説明〕パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長(左)とトランプ大統領(AFP時事)
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