- 2025/09/03 掲載
アングル:「外為法」が翻弄するTOB、審査が長期化 買収に不確実性
[東京 3日 ロイター] - 温度センサー大手の芝浦電子を巡る株式公開買い付け(TOB)は、外為法(外国為替及び外国貿易法)上の審査の長期化に翻弄された格好となった。地政学的リスクの高まりから、こうした審査は世界的に増加、長期化が見込まれるが、安全保障の問題だけに審査の透明性を求めることも難しく、買収の不確実性が増している。
<安全保障の条件受け入れ>
台湾のヤゲオコーポレーションは今年2月、芝浦電子へのTOBを表明、外為法に基づく届け出を政府に提出した。審査継続のため一度取り下げたが、6月に再度届け出を行い、8月27日には政府側との協議が整ったと発表。9月2日にようやく承認取得に漕ぎつけた[L4N3SG0C6]。この間、財務省によるリストの改定に伴い、7月には芝浦電子は外為法上の「コア事業」に分類された。
日本の外為法では、買収対象企業が日本の経済や安全保障にとって重要とされる場合、「コア事業」に区分される。ただコア事業への分類は、外資からの買収禁止を意味するものではない。買収が安全保障上のリスクにならないか、当局が審査を行うことになる。
関係筋によると、ヤゲオは政府が提示した安全保障に関する条件を全て受け入れた。条件の内容は明らかになっていないが、複数の政府筋によると、海外の買い手に対する典型的な要求としては、買収する企業の重要事業を切り売りしないという誓約などがあるという。
うち1人によると、芝浦電子は日本の国家安全保障にとって戦略的に重要とされるサプライチェーン(供給網)の一部であることから、ヤゲオは安全保障上の技術の流出を防ぐ条件を受け入れたという。
<「待ち」が長期化、透明化は困難>
ヤゲオと当局の協議を「待つ」しかなかったのは、芝浦電子に対してホワイトナイト(友好的な買収者)としてTOBを実施していたミネベアミツミだ。8月に入り、長期化にしびれを切らし、他の戦略的投資が滞るなどとして、これ以上の価格引き上げや法令上必要な延期以外は行わないと表明した。
貝沼由久会長兼最高経営責任者(CEO)は、現状の外為法審査のあり方に対し「政府が絶対に譲れないコア事業なのか、そうではないのか。十把一絡げにコア事業と称するのはどうなんだろう」と問題意識を明らかにし「コア事業になったら外資は取れないとはっきり規定があれば話はもっと分かりやすい」と述べている。ただ、こうした分類は「コア事業」を営む企業の経営の選択肢を縛ることになり、現実的ではない。
財務省によると、分類リストは主に企業からの回答に基づいており、リストの公表も、あくまで便宜上のものとの位置付けだ。
審査の内容や経過に透明性を持たせることも「国家機密とか企業機密にかかわるものであれば、そうそう開示もできない。今回の場合でも、ヤゲオが詳細を開示すると、芝浦電子の機密情報に影響する」(レコフ企画管理部の澤田英之部長)。
日本製鉄によるUSスチール買収でも、2023年12月の買収発表以降、25年6月の買収完了までの間、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査延長が行われた。日鉄は、審査の過程や具体的な日程、内容についての対外公表は行えない立場だった。
芝浦電子のケースは、ヤゲオが2月に審査を届け出て以降、2度の再提出・期日延期を経て半年かかったが、関係者によると、珍しいことではないという。澤田氏は「各国とも経済安全保障の審査はどんどん厳しくなっている。これから、こういうケースは増えていくと思う」と話している。
(清水律子、山崎牧子、竹本能文 編集:石田仁志)
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