- 2025/10/13 掲載
揺らぐ秩序、G20の行方は=世界経済の展望、識者に聞く
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が15、16両日、米ワシントンで開かれる。トランプ米政権による高関税措置の発動で自由貿易体制を柱とする戦後秩序が揺らぐ中、2008年のリーマン・ショック後の国際協調の枠組みとなってきたG20は、どこに向かうのか。山崎達雄元財務官(国際医療福祉大特任教授)とBNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏に聞いた。
◇米国がG20合理化も 山崎達雄・元財務官
―世界経済の現状は。
トランプ米政権が関税交渉で各国に何を求めているかが最大の不透明要因だったが、交渉は対中国を除き、おおむね決着を迎えた。不確実性が低下し、国際通貨基金(IMF)が近く公表する最新の世界経済見通しでは、2025年の世界全体の成長率(7月時点は3.0%)は上方修正されるだろう。
世界貿易機関(WTO)など多国間の枠組みが機能しなくなっていた中、米国は相手国の関税を下げさせたり、市場を開放させたりしている。行き当たりばったりに見えるが、どうすれば米国の利益になるのかをよく練った戦略を取っている。米国がこじ開けた閉鎖的な国の市場から日本など他国もメリットを得ようとする動きも広がる。現在は米国だけが利益を享受しているが、世界経済全体としてはある意味では良いことでもある。
―来年は20カ国・地域(G20)議長国が一巡して米国に戻る。
08年のリーマン・ショック後の世界金融危機に対応するため、新興国を含めたG20の首脳会議が始まった。いざというときにコミュニケーションを取れる非常に重要な枠組みだ。
ただ、金融危機を通り過ぎ、この枠組みをどう活用するのかとなったときに、その時々の議長国が緊急性の低いテーマを俎上(そじょう)に載せることもあった。いろいろなことをやり過ぎて会議のための会議になっている。米国は会議を合理化し、(マクロ経済政策運営など)重要なものに絞ろうとするのではないか。
―日本はどう対応すべきか。
米国は国際開発局(USAID)を事実上解体し、途上国支援が止まった。それだけに、保健衛生など必要な役割をG20や国際機関で担うよう主張すべきだ。
◇トランプ後も自由貿易に戻らず 河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミスト
―世界経済の先行きは。
トランプ政権の高関税政策をきっかけに不況に陥るかといえば、そこまでではない。米国の消費も景気も大きく悪化していない。世界各国は対米輸出を競っており、競争力を落とさないように価格転嫁を控えているからだ。
―中長期的には。
トランプ政権が終わっても、自由貿易に戻れないと強く懸念している。関税が米国の税収の大きな部分を占めるようになり、仮に民主党政権になっても高関税政策をやめることは難しいだろう。米国は覇権国として開かれた市場を提供していたが、それを閉じ、関税を外交交渉などの政策運営のツールにしている。非常に不確実性が高まっている。
―覇権国としての米国はどうなる。
覇権国には、安定的な為替相場システムを維持する機能があるが、次の不況が来たら、米国がドル安誘導に走る懸念がある。リーマン・ショック時は、米連邦準備制度理事会(FRB)が主要中央銀行にスワップ協定を通じてドル資金を供給した。今後は何も条件を付けずに実施するか心配だ。大きなショックが起きた場合に深刻な世界不況を避けられるのか不安がある。
―20カ国・地域(G20)のこれまでの評価は。
世界からの評価はあまり高くない。参加国・地域が多く、政策行動力と拘束力に弱さがある。先進国がつくったルールに対する不満が出るものの、それに代わるものを取りまとめたことはない。学級崩壊的な状況だ。ただ、軍事力や経済力が大きい国の主張が優先されるようなことはあってはならない。米国が(世界全体の利益につながる)「グローバル公共財」を提供しないなら、代わって欧州と日本と中国が協力して提供することも必要になる。
【時事通信社】 〔写真説明〕インタビューに応じる山崎達雄元財務官=3日、東京都千代田区 〔写真説明〕インタビューに応じる山崎達雄元財務官=3日、東京都千代田区 〔写真説明〕インタビューに応じるBNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト=7日、東京都千代田区 〔写真説明〕インタビューに応じるBNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト=7日、東京都千代田区
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