- 2025/12/01 掲載
インタビュー:対米投資案件、原子力が「重要分野」に=JBIC 林総裁
[東京 1日 ロイター] - 国際協力銀行(JBIC)の林信光総裁はロイターとのインタビューで、日米両政府が合意した5500億ドル(約85兆円)の対米投融資案件について、原子力が「重要な分野」になるとの認識を示した。日本企業の動きを後押しするため10月に創設した「日本戦略投資ファシリティ」は、「経済安全保障上の観点からサプライチェーン(供給網)の脆弱性を乗り越えていく」ためのプロジェクトに力点を置くと強調した。
高市早苗首相とトランプ米大統領は10月、対米投融資の対象になり得る21案件を発表。エネルギーやAI(人工知能)などの分野について、関心を寄せているとする複数の企業名を挙げた。日本政府関係者によると、JBICは案件の戦略的メリットや適法性を事前に話し合う協議委員会に参加する。
林氏は具体的な案件についての言及を避けたものの、「米国ではエネルギー需要が高まっていることから、小型モジュール炉(SMR)を含む原子力発電がルネッサンス的に見直され、『さあいくぞ』という感じなっている」と説明。「日本では長らく新たな原子力のリプレース(建て替え)はできていない。サプライチェーンの維持など日本企業への貢献のために(原子力は)重要な分野だ」と語った。
対米合意に基づく投融資は日本側の債権が完済されるまでは米側と現金収入を折半し、その後は日米が1対9の割合で配分する仕組みだ。林氏は日本側への配分が低く設定されてはいるものの、「(トランプ)大統領に案件を推薦する投資委員会の前に日米双方が入る協議の仕組み(協議委員会)がある。償還確実性や日本側利益の確保が(案件決定の)前提だ」とし、「我々は堂々と法律にのっとってやればいい」と強調した。
林氏がプロジェクトの組成に自信を見せるのは、日本企業にとって米国市場は依然として魅力的だと考えているからだ。「米国は日本企業の事業ポートフォリオの中でも収益源として非常に大きい。米国では経済のイノベーション、ビジネスモデルの転換を含む成長がずっと起きてきた。今後も米国市場への関心は高くあり続けるだろう」とした。
一方で、案件への参加企業を増やすためには米側の前向きな取り組みも必要になるとの認識も示した。「我々は資金を提供するが米側から土地や水の提供、いろんな規制緩和が得られるかもしれない」とした上で、「日本企業にどういったメリットがあるのか米側に示してもらうことによって、(日本企業の)みなさんが(合意に基づく枠組みを)利用しやすくなるのではないか」と話した。
政府は9月下旬、米国との合意を受けてJBICが先進国に投資できるよう政令を改正した。JBICは半導体や医薬品、鉄鋼、造船などの重要分野で日本企業の海外展開を支援する「日本戦略投資ファシリティ」を創設した。
林氏は「世界経済の中で日本はどうやって生きていくか。より戦略的に考えないといけない時代になった」と背景を説明。「地政学的な対立や紛争、異常気象などで、いろんなところでサプライチェーンが寸断されることがある」とし、「日本が世界から頼られる国であり続けるためにも、日本企業と一緒に日本の技術を使って事業に取り組めば経済発展につながると言われるよう戦略的プロジェクトを推進していく」と語った。
「先進国相手でも重点を置いて取り組まなければならない分野が増えている」として自動車、医薬品、鉄鋼などの分野を例示した上で、「サプライチェーンの脆弱性を乗り越えていく」とも話した。
JBICは2012年4月に現在の形となった政府金融機関。日本政府が全株式を保有する。「一般の金融機関が行う金融を補完すること」を目的に、外国での資源開発や地球温暖化防止に向けた事業の促進、国内産業の国際競争力向上などを業務とする。日米政府が合意した対米投融資には日本貿易保険(NEXI)とともに関与することが決まっている。
*11月28日にインタビューしました。
(鬼原民幸、山崎牧子 編集:久保信博)
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