- 2025/12/01 掲載
「AIの父」ヤン・ルカン氏「LLMの限界」と「世界モデル重視」を表明
テキストだけでは世界理解は不十分、Metaを離れ「世界モデル」のスタートアップ設立へ
ビジネス+IT
ルカン氏は、2025年に開催された複数の公開イベントや対談で、最近のAI業界におけるLLM(たとえばChatGPT、LLaMAなど)の隆盛に対し、懐疑的な見解を改めて示した。彼は「I’m not so interested in LLMs anymore」と語り、LLMが現在、より多くのデータ・計算・合成データによる“量の拡張”を通じて改良されているだけの「製品主導(product-driven)」技術に過ぎず、これ以上の進化には限界があると述べた。 ルカン氏はノーベル物理学賞を受賞した、Geoffrey Hinton(ジェフリー・ヒントン)氏、モントリオール大学教授のYoshua Bengio(ヨシュア・ベンジオ)氏と共に「AI・ディープラーニングの父」として知られている。
ルカン氏によれば、LLMが“知能”と呼ばれるべき性質──たとえば、世界を理解する力、継続的な記憶、論理的推論、計画立案、因果関係を踏まえた判断――を持つにはあまりに不十分だ。LLMはテキストのパターンを馴染ませて回答を生成するにすぎず、「テキスト以外の感覚情報や、変化する世界との相互作用」を伴わない限り、人間のような柔軟で根源的な理解には到達し得ないという。
そのため、ルカン氏は今後のAI研究の主流を「世界モデル(world models)」に置くべきだと主張する。具体的には、視覚や映像など多様な感覚入力を通じて「この世界がどうなるか」を予測・理解できるAI、すなわち彼が提唱するアーキテクチャ JEPA(Joint Embedding Predictive Architecture)などを活用し、因果関係や物理法則、環境への行動と反応をモデル化できるシステムを目指すべきだという。
また、単にモデル規模や計算資源を増やす「スケーリング(scaling)」ではなく、より根本的な設計の見直しが必要だとも述べた。ルカン氏はスケーリング万能論、すなわち「パラメータ数・データ量・計算量を増やせば自然と賢くなる」という考え方を“信仰(religion)”と評し、実世界の曖昧性や不確実性を扱うには通用しないと警告した。
こうした発言の背景には、LLMに偏重した現在のAI業界が「生成AI(GenAI)」やチャットボット、文章生成サービスに注力するあまり、より基礎的で汎用的な「知能」の実装が遅れている、という危機感がある。ルカン氏は、こうした偏りを是正し、AIの次のブレークスルーにつながる長期的研究へ資源と関心を向けるべきだと訴える。
加えて、ルカン氏がチーフAIサイエンティストとして12年間所属したMetaを離れ、新たなスタートアップを立ち上げて「世界モデル」志向の研究に専念する意向であることが伝えられている。これは、LLM重視の商業主導の戦略とは明確な決別を示す動きとされる。
まとめると、ルカン氏はLLMの有用性を否定したわけではないが、それが「究極のAI」ではないと明言した。彼は、テキストの大量処理では到達困難な「世界の理解」「継続的記憶」「因果推論」「行動と予測」を兼ね備えた次世代AIにこそ価値があるとし、その実現には現在のパラダイムを根本から見直す必要があると主張している。
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