- 2025/12/01 掲載
アングル:日銀総裁、12月利上げへシグナル 低金利のリスクも意識か
[名古屋市 1日 ロイター] - 12月の利上げ判断に向け、日銀の植田和男総裁が1日、明確なシグナルを出した。経済・物価が見通し通りに進む下で、基調的な物価上昇率が2%に向けて上昇率を高めているとの確信が深まっていることに加え、実質金利が極めて低水準にある中で、政策金利を維持し続けることへの警戒感が背景にあるとみられる。利上げ決定へ最大の焦点となる春闘の初動モメンタムの確認を巡り、日銀では楽観的な見方も聞かれている。
<氷見野発言と類似、前年と異なる基調物価>
18―19日の金融政策決定会合で利上げの是非を「適切に判断したい」――。植田総裁がこう明言したことで、市場では12月会合での利上げ観測が急速に高まった。前回利上げを決めた1月の決定会合前には、氷見野良三副総裁が「利上げを行うかどうか、政策委員の間で議論し、判断したい」と話しており、類似の発言を受けて、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む12月会合での利上げ確率は82%に跳ね上がった(東短リサーチ/東短ICAP調べ)。
1月の利上げは、支店長会議で賃上げ継続へ強めの報告が多かったことが決め手の1つになった。賃上げに向けた労使のスケジュール感は今回も変わらず、1月の支店長会議でも各支店から報告がなされる。しかし、植田総裁が1月を待たずに企業の賃上げ動向の「精力的な情報収集」を強調した背景には、前回の春闘時と経済・物価環境が異なっていることがあるとみられる。
日銀は、基調的な物価上昇率は着実に2%に接近しているとみている。前年同時期と比べれば基調物価の水準は高く、賃金と物価の緩やかな上昇の継続を確認するにしても、前回並みの賃上げ率や経営者の強いコミットメントは必要ないとの声が日銀では出ている。植田総裁は講演で、春闘に向けた連合や経団連の基本方針、さらに政労使会議といった事実を列挙した。こうした賃上げ継続への基本方針や政府の環境整備を素地として、経営者の具体的な方針を日銀は収集している。
<緩和的な環境での調整>
さらに、日銀では、極めて低い実質金利の継続が、金融の不均衡をもたらすことへの警戒感が高まっている。植田総裁は講演で、実質金利の現状を踏まえ「政策金利を引き上げると言っても、緩和的な金融環境の中での調整だ」と踏み込んだ。こうした発言は従来、利上げ決定の際に行ってきたが、今回は利上げを決定する前の段階で言及した。
実質金利の低さを巡っては、11月に小枝淳子審議委員や増一行審議委員も言及している。小枝委員は11月の講演で「実質金利を均衡状態に戻していくという金利の正常化を進めることが、将来に意図せざる歪みをもたらさないためにも必要だ」と述べた。日銀では、極めて低い実質金利が続くことで物価が上振れ、ビハインド・ザ・カーブに陥ることへの警戒感も出ている。
この日の総裁発言は、拡張財政を打ち出す政府に対しての配慮もにじませた。植田総裁は「遅すぎることもなく、早すぎることもなく、緩和の度合いを適切に調整していくこと」が「これまでの政府と日本銀行の取り組みを最終的に成功させることにつながる」と説いた。
植田総裁は会見で、11月に相次いで会談した高市早苗首相や片山さつき財務相、城内実経済財政相との会談で「さまざまな論点について、率直に良い話ができた」と話す半面、政府の経済対策がもたらすインフレ圧力についてはこれから精査するとして明言しなかった。
木原稔官房長官はこの日の総裁発言に具体的なコメントは控えたが「今後の利上げを含め、金融政策の具体的手法は日銀に委ねられるべきだ」と語った。
植田総裁は12月の決定会合で、賃上げ動向を巡る情報に加え、経済・物価・市場動向を「様々なデータや情報をもとに点検・議論する」と述べた。米経済について下方リスクは後退したと判断しているものの「ここからネガティブなニュースが出てくるかどうか注目していく」としており、会合までの市場状況なども踏まえ、最終判断することになる。
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