- 2025/12/05 掲載
アングル:政策パスで日銀「布石」の思惑、タカ派利上げなら一段の円高も
[東京 5日 ロイター] - 日銀が週初に発したメッセージを巡り、今後の利上げ余地に関する市場の思惑が交錯している。植田和男総裁のタカ派発言を経て、出尽くしが意識されて円安方向となったが、先行きの利上げ余地に「布石」を打っていたのではないかとの見方も出ている。12月の会合がタカ派的な利上げとなるリスクが意識されれば、一段の円高シナリオも浮上しそうだ。
<ビハインド・ザ・スケジュール>
植田総裁の1日の講演について、三菱UFJ銀行の井野鉄兵チーフアナリストは「今後の利上げペースを速めることへの布石を打っているかもしれない」と話す。そのタカ派的なメッセージは、12月利上げへの含みにとどまらない可能性があるとの見方だ。
為替市場では12月利上げを強くにじませた1日の植田総裁の発言を受け、いったんは156円近辺から154円台へとドル/円が下落した。ただ、短時間で155円台に切り返し、12月の利上げは織り込んだとの見方が広がった。今回の局面では半年に1回の利上げペースというこれまでの市場の想定に基づけば、追加利上げまで時間的猶予があることも、円売りの安心感につながった面がある。
もっとも、日銀のタカ派化を完全には織り込み切れていない可能性もくすぶる。仮に12月会合で利上げしたとしても、今年1月の利上げからは11カ月目となり、半年に1回という当初の市場想定からは大幅な後ずれになる。井野氏は「ビハインド・ザ・カーブではないとしても、ビハインド・ザ・スケジュール」になると指摘する。
政府の経済対策が、基調的物価の上振れ要因になる可能性も見逃せない。植田総裁は4日の参議院財政金融委員会で政府の経済対策が経済や物価に与える影響について「現在精査中」と説明。物価対策が消費者物価の総合を引き下げる一方、基調的な物価は「成長率がプラスの影響を受けることから、押し上げる影響を持つと思う」との見方を示した。
<実質金利のマイナス幅>
植田総裁の講演で一部の市場関係者が特に着目したのは、発言だけではない。配布された補足資料で示されたグラフでは、6月に行われた講演で示されたものよりもおよそ1%程度、実質金利のマイナス幅が深い形で示されていた点だ。
6月時点では1年物国債利回りから、日銀スタッフの予想物価上昇率の推計値を差し引く形で算出していたが、無担保コールレートから消費者物価上昇率(生鮮食品を除く前年比)を差し引く形に差し替わった。これにより、6月にはマイナス1%台半ばと示されていた実質金利の数値は、マイナス2%台半ばに当たることが示された。
日銀側の意図は定かではないが、市場では、このタイミングであえて差し替えたことの意味をくみ取ろうとする動きが活発化している。別の国内銀行の為替セールス担当者は、12月だけでなくその先の利上げの頻度が高まる可能性があることを踏まえ、顧客に対してドル/円で「下(円高)方向への警戒を促した」と話す。
ニッセイ基礎研究所の上野剛志・主席エコノミストは、実質金利は「低ければ低いほどまだ緩和的であり、追加的な利上げ余地があるといいやすい」と指摘。利上げしても打ち止め感が出にくいとの見方を示す。12月会合に向けて踏み込んだ発言をしたタイミングで用いた資料でもあり「追加的な利上げ余地を強調したとの思惑が(市場で)広がってもおかしくない」と話す。
<中立金利の推計が焦点>
焦点となるのは、中立金利のレンジを日銀がどう見ているかだ。日銀が景気を加速も減速させない実質金利とされる自然利子率の推計値を最後に示したのは2024年で、マイナス1%─プラス0.5%程度としている。自然利子率に日銀が目標とする物価上昇率2%を足せば名目の中立金利はプラス1―プラス2.5%となる。
植田総裁は1日の会見で、現在の金利と中立金利の関係について、次回利上げをすることがあれば明示したいとの考えを示した。日銀が改めて自然利子率の推計を示す場合、中立金利に対する市場の目線がこれまでより高まるなら「利上げパスが継続されることへの示唆」(三井住友銀行市場営業部為替トレーディンググループの納谷巧グループ長)にもなる。
野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、仮に中立金利が上がれば、2026―27年に向けた利上げ期待の上昇余地につながり、追加的な円高圧力になるとの見方を示す。
ドル/円は平時なら日米金利差への相関をにらんだ動きが意識されるが、足元ではこの相関が崩れた値動きが目立っている。このため、素直にドル/円が反応するかは不透明としながらも、野村の後藤氏は「仮に市場のターミナルレート(利上げ最終到達点)の織り込みが25─50bp切り上がる場合には、5円超の円高インパクトがある」との見方を示している。
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