- 2021/05/28 掲載
アングル:米株式、今の強気相場は過去最短か 割高感に警戒も
新たな株高局面が始まってほんの1年余りの今、その進行スピードの速さが投資家の不安を誘い、来年にかけて突然上昇が終わりを迎えるのではないかとの懸念が広がっている。相場サイクルの現時点におけるリターンとバリュエーションが従来に比べて高い点を理由に、実は前回の強気相場がコロナ禍を乗り切ってまだ続いているだけなのでは、といった意見さえ聞かれるほどだ。
どちらのシナリオであっても市場にとってあまり良い話ではない。経験則に従えば、強気相場というものは自然に消えてなくなるわけではなく、バリュエーションやレバレッジが極端に膨れ上がっている場合は、中央銀行の政策が幕引き役となる傾向がある。
だから新型コロナウイルスが強気相場の息の根を止めなかったとしても、米連邦準備理事会(FRB)が近く始めるであろう金融緩和の巻き戻しが決定打になるかもしれない。そうした心配が既に最近の株価上昇を鈍らせ、現金や安全資産への資金逃避を加速させつつある。
JPモルガン・プライベート・バンクの投資ストラテジスト、グレース・ピーターズ氏は、現行の強気相場が始まってまだ1年半足らずなのに、市場がもう「サイクル中盤」の様相を呈していると指摘する。前回の強気相場で、こうした状況が見られたのは5年前後経過してからだった。
具体的にはS&P総合500種が昨年2月、直近の強気相場の天井を24%上回った。2008年の後、この節目に到達するまでに約5年かかっている。
ピーターズ氏によると、株式のリターンも既に、通常のサイクル中盤の水準である1桁台半ばから後半より高くなっている。「08年の金融危機と比べたサイクル進行のスピードは驚きだ。われわれは目先の揺り戻しへの警戒を強めている」という。
09年から昨年まで続いた過去最長の強気相場を通じて、世界の株価は237%上昇。そして一気に最大で20%急落する最速の弱気相場をパンデミックがもたらしたものの、主要中銀の利下げや大規模資金供給でこの弱気相場もすぐに退場し、それ以来世界の株価は73%上がって時価総額にして42兆ドル(約4580兆円)増えた。
これらの動きは、少なくとも杓子定規に考えれば新しい強気相場の到来を示している。だが株価の落ち込み幅が小さく、過去に比べて反発がずっと急激で力強いため、そうした定義が本当に妥当なのかとの声が、一部の市場参加者から聞かれる。
イートン・バンスのエドワード・パーキン最高株式投資責任者は「われわれは長期間の下落サイクルを経験しなかった。今の株式市場は(新しい強気相場の)中盤から後半か、そうでなければまだ終わっていない直近の強気相場の第2幕となる」と説明した。
パーキン氏は、もしFRBの金融引き締めによって再び景気後退に陥るとすれば、このサイクルは金融政策の動きで終止符を打ちそうだと予想。もっともこれは来年に入ってからの問題だという。
<実体経済とのかい離>
バリュエーションも危険なシグナルであるのは間違いない。現在の強気相場はより高いバリュエーションから出発しており、S&P総合500種の株価収益率(PER)は早くも予想利益の21倍に達している。
クラインオート・ハンブロスが1870年以降の相場サイクルを対象に実施した調査からは、景気循環調整後のPER、いわゆるCAPEは強気相場開始時点で平均11.5倍、終了時点で20倍前後だと分かる。ところが今の強気相場は昨年3月に始まった段階で24.8倍あり、足元は37倍となっている。
同社のファハド・カマル最高投資責任者は、株高が進むとともに、まだ失業率が高水準にとどまるなど景気回復初期の兆候を見せている実体経済とのかい離が生じてきていると分析。こうした異例の事態を受け、相場サイクルのこの段階としては通常より慎重な姿勢になっていると明かした。
問題は実体経済が素早く株価に追いつけるかだ。
カマル氏は「FRBのテーパリング(緩和縮小)は1つのリスクだ。しかしその代わりによりしっかりしたマクロ経済活動が出現すれば、大量の流動性は必要なくなる。万事うまく運べば、ファンダメンタルズが強まってテーパリング(の悪影響)を中和する」と強調した。
(Thyagaraju Adinarayan 記者 Sujata Rao記者)
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