- 2021/07/01 掲載
山井スノーピーク社長、コロナ禍が「自然体験欲求を喚起」=売上高6割増
新型コロナウイルスの感染拡大で多くの旅行・レジャー産業が低迷する中にあって、キャンプ関連需要の高まりが顕著だ。テントなどの製造販売からキャンプ場の管理運営まで幅広く手掛けるスノーピークは、2020年12月期の売り上げが前期比17.6%増、21年第1四半期(1~3月)の売り上げも前年の同じ時期に比べ62.5%増を記録。「文明が進歩すればするほど自然体験欲求は高まると予想していたが、コロナ禍でその時期が前倒しで来た」と語る山井梨沙社長(33)に、現状認識や今後の展望を聞いた。主なやりとりは次の通り。
―コロナ第1波が広がる大変な時期に社長に就いた。
次世代の組織に引き継ぎたいという会長(山井太・前社長、父親)の意向もあって昨年3月27日に就任した。その後、緊急事態宣言(1度目)の発令があり、9割方店舗を閉めなければいけない状況で、倒産の危機ぐらいの危機感を持った。実店舗の売り上げが立たない中、インスタグラムやフェイスブックを活用したり、泥臭く顧客リストに地道に電話したりして、オンラインストアの間口を広げた。それによって宣言解除後の6月以降は、毎月新規のお客さまを1万人から2万人程度増やすことができた。
―コロナ禍で業績が伸びた背景は。
文明都市で失われていく人間性を自然の中で回復させようというのが、レジャーとしてキャンプを楽しんでもらうビジネスモデルだ。文明が進歩すればするほど、自然体験欲求が高まると予想し、実際コロナ以前から上昇傾向は感じていたが、コロナでその時期がかなり前倒しで来たという感覚だ。旅行に行けない中、「3密」が防げるレジャーとして選択肢の上位に来た。また、テント泊ではなくラグジュアリーなベッドなどを備えた施設で泊まるグランピング事業も展開している。オフシーズンでも一人7万円という富裕層向けサービス展開だが、海外旅行の代替えとして利用が増えた。
―ソロキャンプもブームとして取り上げられているが。
もちろん、うちのキャンプ場でも誰とも関わらず一人で火をたいている方もいらっしゃる。でも本来、人は一人では自然の中で生きていけない。クマに襲われた時、周りに誰もいなかったら死ぬかもしれない。それに対し、本来のキャンプの魅力は、都会で人との関わりが薄れている人がキャンプ場に来て、隣のスペースでテントを張っているご家族から「ちょっとカレーを作り過ぎたので、どうですか」と言われたりして、田舎のご近所付き合いのコミュニケーションが生まれるようなものではないか。そういう出会いで生涯のキャンプ仲間、新しいコミュニティーができたりする。自然の力で人間性を回復していくというのが、われわれの社会的使命だ。
―保養地で働くワーケーションにも力を入れている。
ワーケーションは、世の中的にはコロナ禍で聞くようなったが、スノーピークでは17年ぐらいからキャンピングオフィス事業としてアウトドアオフィスのしつらえで企業研修を行ったり、JTBと組んでワーケーションのハワイツアーのプランをつくったりしてきた。自然の中で気分転換しながら働くという新しい形をどんどん提案してきたい。
―自治体との連携についてはどうか。
全国各地の自治体と包括連携協定を締結し、自然観光を基盤とした拠点開発の取り組みなどを進めている。高知県越知町に18年にスノーピーク指定管理のキャンプ場を県の依頼を受けて造ったところ、1年目で観光交流人口が1万人ぐらい増え、翌年2万増えた例もある。スノーピークがあることでアウトドアパーソンがその自治体に集まるという仕組みは、今後も広げていく。
―選ばれる理由に製品の永久保証制度があると聞く。
今でこそ環境配慮が言われているが、うちでは30年以上前から(修理を断らない)「永久保証」をすべての製品に付けている。家電などは期間が過ぎると修理すらできず結局、粗大ごみに出すしかない場合があるが、ごみにならないよう、壊れてもしっかり修理して使い続けてもらうのは、自然と関わるアウトドア企業の責任だと思っている。「スノーピーク製品だったら壊れても直してもらえて長く使える」という信頼感につながっている。テント1個持っていても、家族が増えたから少し大きなテントを買い足そうとか、テーブルや椅子もそろえようとか、買い足し買い足しの顧客創造ができていると思う。
―人材育成、求める人材は。
私が取締役に就任した18年から社長に就任するまでいちばん力を入れてきたのが組織改革と人材育成だ。それまでは会長の強いリーダーシップで成長をけん引してきたが、私はもっと現場からどんどんアイデアが湧き上がってくるような企業文化にしたいという気持ちが強かった。その一環で、18年から年2回、全社員が集まる社員総会を始めた。1泊2日全員キャンプ泊をしながら、普段の業務のことだけでなく、会社の未来ついてディスカッションする。昨年はオンラインに切り替えているが、コロナ前は300人ぐらいが参加した。
また、主体的な行動を促す評価制度の改定なども行った。採用は毎年、新卒で30人弱、中途は状況によって20~30人。アウトドアパーソン、そして、小さくてもいいから何か目的、目標を持って生きている人、主体性のある人を求めている。
〔写真説明〕時事通信のインタビューに答える山井梨沙・スノーピーク社長=6月25日、新潟県三条市の本社 〔写真説明〕時事通信のインタビューに答える山井梨沙・スノーピーク社長=6月25日、新潟県三条市の本社
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