• 2021/07/21 掲載

焦点:PB黒字化、税収増でも道筋描けず 経済成長の足かせ懸念

ロイター

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金子かおり 山口貴也

[東京 21日 ロイター] - 内閣府が21日発表した新たな財政試算は、過去最高の税収を織り込み基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化時期を2年前倒しした。ただ、政府が目標とする2025年度には依然として届かず、財政健全化の道筋は描けていない。今秋の衆院選を控え、国が緩んだ財政運営を繰り返せば、格下げを通じて金融機関などの資金調達に影響する事態も予想され、かえって経済成長の足かせになりそうだ。

先行きのPB状況を算出した「中長期財政試算」は、内閣府が同日の経済財政諮問会議に提示した。年2回のペースで策定し、経済財政運営に反映させるものだ。

今回の試算では、20年度税収が過去最高の60兆8216億円となったことを踏まえ、実質2%(名目3%)を超える高成長を続ければ、国と地方のPBが27度に黒字化すると見込んだ。今年1月時点では黒字になるのは早くても29年度としていた。

想定が前倒しされたことについて内閣府幹部は「コロナ後は厳しめの試算をみていたが、大規模な経済対策で雇用や事業は守られており、足元の税収は堅調だった。PB黒字化はコロナ前に近づいている」と説明する。

もっとも、より現実的な実質1%、名目1%台前半の成長を前提とする試算では30年度にかけ6兆円規模の赤字が残る。過去に国際公約と位置付けた25年度目標には遠く及ばない。

<剰余金巡り特例法も>

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「今回の税収増で財政再建に対する取り組みのハードルが下がった」と指摘する。

財務省が5日発表した20年度一般会計決算概要によると、歳入の柱となる税収が想定を超えて推移し、国債償還や補正予算の財源となる純剰余金は4兆5363億円と、過去最大の水準となった。

財政法の規定では、剰余金の半分を国債償還に充てることが義務付けられ、制度上は残る2兆2000億円余りの追加財源を確保したことになる。コロナ対策予備費4兆円の活用と併せ、衆院選を控えた与党から歳出圧力が強まるのは必至だ。

30兆円規模の補正予算を編成すべきと主張する自民党の二階俊博幹事長は、20日の記者会見で「財源を考えないで政策を打ち出すことはない」と、ロイターの質問に応じた。

ただ、年末にかけ剰余金の扱いを詰める過程で、全額を補正予算に充てる特例法を通す選択肢が浮上することも予想され、「将来を楽観する見方が、本来の使途を狂わせることがないようにしないといけない」と熊野氏は言う。

<選挙公約が試金石に>

コロナ禍の危機対応と、デジタルやグリーンなどを柱とするコロナ後の成長を見据えた歳出をどうバランスさせるかも焦点となる。「ワイズスペンディング(賢い支出)の徹底をうたう中で規模ありきの補正編成を繰り返せば、政権与党としての見識を問われる」と、自民中堅議員の1人は言う。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は、規模ありきの追加対策論議が進めば「後年度にわたってさらに歳出のベースが底上げされかねない」と警鐘を鳴らす。

国の20年度決算では、税収が想定を上回ったことで新規国債発行予定額112兆円のうち4兆円を減額する未済処理に踏みきったが、それでも公債依存度は6割を超える。米国の22.6%やイギリスの32.9%、ドイツの42.8%などと比べ、先進国の中でも突出して高い。

今のところ主要7カ国(G7)は、政策を総動員してコロナに対処する構えを崩していないが、コロナ後に各国との信用(格付け)格差が際立つようだと「日本のメガバンクや企業の信用コストに飛び火し、民間経済に悪影響が及びかねない」(別の与党議員)と懸念する声もくすぶる。

自民、公明両党は、政府が8月末に締め切る22年度予算要求に併せて選挙公約をまとめる構えだが、追加策の柱立てをどう明記するかは、今後の財政運営を占う試金石となる。

(編集:石田仁志)

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