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  • 2022/12/19 掲載

DXが失敗するのは経営幹部のせい、技術や技法を知るだけでは不十分なワケ

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日本の経済成長は低迷を続け、先進国の中でも相対的にどんどん貧しくなっています。こうした現状を打破し、企業が生み出す付加価値を加速度的に増大させるためにも、DXによる企業改革が求められています。DXを成功させるために重要な要素として徐々に明らかになってきたのが、「経営幹部がどのようにDXに関わるのか」という点です。経営幹部はAIやIoTの技術、業務改革の技法を知るだけでは不十分です。本稿では、よくあるDXの失敗から脱却し、最大&最速で限界を超えた成長を成し遂げるために経営幹部はどうすべきかを解説します。

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役
経営コンサルタント

大手コンサルティング会社を経て、現職。
製造業、情報サービス業などの、事業戦略、IT戦略、新規事業開発、業務革新、人材育成に関わるコンサルティングを行っている。
公益財団法人 大隅基礎科学創成財団 理事。
関連著書『正しい質問』アマゾン、『イノベーションのリアル』ビジネス+IT、『ダイレクト・コミュニケーションで知的生産性を飛躍的に向上させる 研究開発革新』日刊工業新聞、等

アクト・コンサルティング
Webサイト: http://www.act-consulting.co.jp

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経営幹部の関わり方がDXの成否を左右している
(Photo/Getty Images)

DXによって最大&最速で成長の限界を突破する

 筆者はこれまで、一般企業のDX推進部門やIT部門、経営幹部、またITベンダー向けのDX教育を進めてきました。教育によって社員のDX企画推進力を高め、数百のDXテーマを推進したり、従来の現場改善活動にAIやIoT等の先進技術活用を取り入れるなどの効果が出ています。

 一方で、海外先行企業に対抗する、大きな効果を早く得るためには、社員のみならず、経営幹部向けのDX教育が重要です(本稿でDXは、「デジタルテクノロジーを活用して企業改革を最大最速で実現する」という意味で使っています)。

 日本の数十年にわたる経済成長の低迷は、閉塞感となってこの国を覆っています。原資が増えなければ給料も上げられない。先進国の中での日本のポジションは悪化し、日本はどんどんと貧しい国になっています。経済成長を生産面を支えているのは企業が生み出す付加価値です。日本企業にはこれまでの延長線上にない、付加価値増大の限界突破が求められています。

 本稿で示す先行事例や公開情報から、DXによる企業改革には、付加価値の成り行き成長の限界を突破する力があることが分かります。しかし、AIやIoTなどの技術や業務改革の技法の教育だけでは、限界は突破できません。テクノロジーを用いた企業改革の本質を知り、これを実践できるようになることが必要です。

 本稿では、前半、後半の2回にわたって、先行事例や具体的な方法をもとに、DXにより最大、最速で成り行き成長の限界を突破する、経営幹部向けDX教育の方法を紹介します。

DXの効果は「ビジネス課題」次第でまるで違う

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「ビジネス課題」が異なれば、DXで得られる効果や成果は違ってくる
(Photo/Getty Images)

 製造業で、生産形態が類似する製品の生産方法をグローバルに標準化すれば、世界のどこでも同じものが作れ、サプライチェーンの脆弱性を低減したり、設備を集中購買したり、作り上げた生産ノウハウを世界に還流することができます。DXによる需要予測やシミュレーションを使って、世界最適生産を実現するための基盤にもなります。

 しかしある化学メーカーでは、もっと大きな課題解決のために、同様な改革を進めました。この企業では、新しい物質開発の自社比率を下げ、代わりにベンチャーや大学、他のメーカーから仕入れ、特許を獲得し、あるいは企業ごとM&Aする方法で、開発生産性と上市までのスピードを高めています。新たな物質の開発は、成功確率が低く、開発できてもそれが大きな収益を上げる確率も低い。そこでそのような開発を自社で行わず、良いものを探すことにしたのです。

 その分、自社での市場開発から量産までのシステムを磨き上げました。新しく得た物質を、まるでカートリッジのようにこのシステムに差し込めば、量産、収益化までを最速で進められるシステムです。これによって、これまで社内で新しい物質を開発する度に個別に作っていた生産システムをグローバルに最大限標準化し、量産化に関わる問題を事前に解決し、最速で市場投入できるようになりました。

 ベンチャーからすると、たとえ良い物質を作れても、彼らにはこれを量産化して市場に流す力はありません。そこで、ベンチャー側から積極的に、そのようなシステムを持つ企業にアプローチしてきます。これによって得た財務的メリットは、単にサプライチェーンの脆弱性解決やコスト削減だけではない、開発生産性の劇的な向上と、市場投入までの時間短縮によるシェア拡大という、大変大きなものでした。

 一見似たようなDXシステム、業務や事業の改革であっても、それで何を解決するか「ビジネス課題」が異なれば、成果は違ってくるのです。

 DXを用いて、プラットフォーム型のビジネスモデルを構築する例があります。ある企業は、プラットフォームを通じて自社の製品やサービスに加え、関連するパートナー企業の製品やサービスまで提供できるようにすることで、顧客の利便性を向上しようとしています。

 一方で競争相手の海外企業は、プラットフォームによって現在リーチできない新興国を中心にした顧客にアプローチし、顧客に提供できるあらゆる製品、サービス、情報を得るために世界で多くのパートナーと連携して手数料収入を得、その中から自社の製品ポートフォリオに入れるべきパートナーを選んでM&Aを実施しようとしています。そのために、各現地法人にはパートナー獲得の数値目標が示され、本社にはパートナー企業の中からM&Aするべき企業のリストが作られています。

 作り上げるプラットフォーム・システムは似たようなものですが、それで何を行うか、「ビジネス課題」次第で、効果はまったく違うものになります。

 このような「ビジネス課題」を、現場社員にAIやIoT、データ分析や業務改革の教育をして考えさせることも重要です。しかし、より大きな効果を、より早く得るためには、経営幹部自身が、DXによってどのような「ビジネス課題」を解決するか考えることが必要です。

【次ページ】P&Gには「顧客がボス」という言葉がある

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