- 2026/10/21 07:10 掲載
あの1杯はなぜ別格だったのか…超一流シェフも使う“東京産食材”に眠る「土地の味」
富裕層向けブランド体験の「物語」を紡ぐナラティブ・マーケティングをプロデュース。また、情報伝達を超えた行動を仕組化し、個の全盛時代において、ラグジュアリー市場での持続的成長を実現する知の「価値共創」戦略を構築する。プレミアムブランドの世界観を体現する戦略的プラットフォームの商品化を手がけ、ミシュラン・ガストロノミーから超高級ライフスタイルまで、文化的価値を経済価値に転換するマーケティング、ブランディングを専門とする。「to create a Real LIFE 敏腕マーケターが示唆するこれからの真の生き方とは」「Life is a Journey」「食と文化の交差点 ガストロノミーへの飽くなき情熱」「食彩探訪」「プレジデントオンライン」「saison luxury lounge」「PEAK Lounge」「PAVONE」などのメディア掲載・連載を通じて真のラグジュアリーとは「所有」ではなく「体験」であり、その体験に宿る物語こそがブランド価値の源泉である――という信念のもと、富裕層マーケティングの新境地を開拓し続けている。主要著書に『予測感性マーケティング』(幻冬舎)、『アフターコロナ時代のトラベルトランスフォーメーション』(ゴマブックス)、『GRAND MICHELIN ミシュラン調査員のことば[特別編集版]』(アンドエト)がある。
伊トスカーナのワインに感じた「敗北感」
フィレンツェから車で南へ1時間ほど。糸杉の並木が丘の稜線をなぞる、キアンティ・クラッシコの村でのことだった。炭火で豪快に焼き上げたビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ。骨付きの塊肉に、岩塩とオリーブオイルだけ。付け合わせは、その日の朝に畑から抜いてきたという青々とした野菜。そこへ、地元の造り手が樽から直接注いでくれたサンジョヴェーゼ。トスカーナの土着品種で仕立てた、まだ少し澱(おり)の残るような赤だった。正直に告白すると、一口飲んで筆者は軽い敗北感を覚えた。このワインは、日本でも全然買える。決して手の届かない稀少品ではない。なのに、なぜ、ここで飲むこの1杯は、こうも違うのか。
酸が、タンニンが、肉の脂と溶け合っていく感覚が、まるで別のワインのようだった。
輸送や温度管理の問題だ、雰囲気に酔っているだけだ──理屈っぽい人はそう説明したがる。もちろん無関係ではないだろう。だが、筆者が直感したのは、もっと根源的なことだった。
この肉と、この野菜と、このワインは、同じ土から生まれた仲間なのだ。同じ太陽を浴び、同じ雨に打たれ、同じ土壌の微生物にさらされて育った。だからこそ、皿の上で再会したとき、彼らは互いを「知っている」。人間が頭で考えた「マリアージュ」など、はるかに超えたところで、彼らは最初から1つの生態系だったのだ。
沖縄で飲むオリオンビールが、なぜあれほどうまいのかを考えてみればいい。あの湿った潮風の中で、ゴーヤーチャンプルーをつつきながら飲む一杯は、都心のバーで飲む同じ銘柄とは、まるで別物だ。土地と食は、切り離せない。東洋には古くから「身土不二(しんどふじ)」という言葉がある。身体と、それが生きる土地は、二つに分けられない。1つのものだ、という思想である。
筆者はそのとき、こう考えた。この「身土不二」の感覚を、トスカーナでも沖縄でもなく、東京という巨大都市のど真ん中で成立させることはできるのか──と。結論から言えば、それは十分に可能だ。いや、可能どころか、東京はそのための条件を、驚くほど豊かに備えている。ただ、私たちがそれに気づいていないだけなのだ。 【次ページ】科学が迫る 「土地の味」の正体…意外すぎる「あの生物」だった?
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