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  • 2011/08/16 掲載

連続歴史企業小説「甲冑社長」 ~最終話 別れの時~(2/4)

浅井長政の家臣、藤堂虎高の息子として生まれた藤堂高虎に学ぶ

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怒りの4倍返し

「ワシが来る前に何か騒いでいたけど、ひょっとして高尾フィルムの注文がキャンセルになったんとちゃうか?」

砂夫の問いかけに顔を見合わせる久礼江と千絵。

「どうして、そのことを!!」

同時に叫ぶ二人。

「リクエストに応えて教えたるわ。高尾フィルムにヤマシマという役員がおったやろ、あいつ昨日付けで懲戒解雇になったんや。あんたらとお友達みたいやけど、知らんかった?」

「……。」

呆然とする二人。

「ワシのブレーンにタヌジマさんという人がおって、その人がいろんな伝手を使って、あんたらのシッポをつかんでくれたんや。随分、阿漕な手を使ってたみたいやけど、今日はそのお礼を言いに来たわけや」

「……。」

黙り込む二人。

「タヌジマさんに高尾フィルムのコバヤシ常務を紹介してもろて、あんたらの悪事をバラしたらえらい怒って、社長に直訴しよったんや。彼は高尾フィルムの良心と呼ばれるくらい真っ直ぐな人やから当然やな。それで、あんたらからお金をもろてたヤマシマは失脚。社内調査をしたらヤマシマは他の会社からも随分つまんでたみたいやで。まあ自業自得というところやな。おかげさんで、あんたらへの注文は全部ウチで引き受けることになったというわけや。ホンマ、ありがとさん!」

今までガマンをしていた千絵が堰を切ったように口を開いた。

「この、ドロボウ猫!!」

「これはこれは…。泥棒にドロボウ呼ばわりされる覚えはないけどな。それより、今日はお土産を持ってきてるんや。見てくれるか?」

砂夫は一枚の紙切れをガラステーブルの上にヒラリと投げた。

力無く目をやる久礼江の顔はみるみる蒼くなっていった。

「こっ、これは高尾フィルムの注文を丸投げした片木システムに渡した手形。なぜ、貴様がもっているのだ?」

「ドロボウの後は貴様扱いでっか。まあ、エエやろ後学のために教えたるわ。片木システムもタヌジマさんの会社の顧客やねん。片木社長がいつもクレーに買いたたかれて困っているって言ってたさかい、なんとかしましょ、とウチで預からせてもろたわけですわ」

「で、この手形をどうしろというのだ!」

憮然とする久礼江に砂夫が切り込む。

「ほな、本題に入りまっせ。この手形をあんたのところで買い戻して欲しいんや。今までの片木さんへの迷惑料を含めて額面の4倍ももろたらエエかな。それと、片木さんのシステムをうちが引き取るというのが条件ですわ。どうせあんたのところに納品しても売る先はないもんな。どや、安い買い物やろ」

「5,000万の4倍というと、2億円?そんな法外な金額払えるか!それにシステムまで横取りするとは…。いい加減にしてくれ!」

「じゃあ、ええわ。あんたらがやったように怪しい金融屋に持っていって割り引いてもらいまっさ。確か昨日が支払い期日やったなぁ、銀行に残高あるのかな?手形が落ちないと事務所はお祭り騒ぎのようににぎやかになるやろな」

「ハハハッ、残高なら心配ご無用。クレーには辰野メディカルや横島電機というお得意さまがいるからね。取引は不成立。さあ、帰った帰った!」

久礼江は犬を追いやるように手をパタパタとさせた。

バーン!

「社長!大変です。辰野メディカルと横島電機の大口注文がキャンセルになりました!」

社長室に駆け込んできた社員はそう言うとFAXの束を久礼江に差し出した。

「これもキャンセル、これもキャンセル。これも、これも…。一体どうなっているのだ!」

合点がいかない久礼江に砂夫が微笑みながら話しかけた。

「久礼江はん、あんたの息のかかった辰野メディカルのクワジマ専務はウチと仲良くしたい言うて頭を下げたで。それに横島電機はこんなことになってますねん」

砂夫は横島電機の経営陣が総辞職した記事が載った新聞をカバンから出して久礼江に見せた。

新聞を奪い取った久礼江はしげしげと記事を眺めた。黙って読んでいたが、しばらくするとワナワナと手が震えだした。

「浅田君!私はこんなこと聞いていないよ。何なんだねコレは?」

久礼江は千絵をにらみつけた。

「あら~。社長は今朝まで海外出張でしたでしょ、心配するとお体に触るかと思って黙っていたのよぉ。もちろん事件の後、すぐに間島社長に挨拶にいったわ。でも、なぜか追い返えされちゃったのぉ。失礼しちゃうわ」

甘えるような声で言い訳をする千絵。

「間島社長はタヌジマさんの元部下や。あんたらのやったことは全部筒抜けになってるで。社内通達でおたくが出入り禁止になってることを知らんかったん?ちなみに、こっちの注文もウチが一括で引き受けることになりましてん。毎度おおきに!」

「人任せにしていた自分がバカだった…。詰めが甘かったというわけか」

そうつぶやいた久礼江は千絵に弱々しい声で命令をした。

「君名義の預金をおろして木馬路目社長に渡しなさい…」

「何よ!あれは私が六本木にお店を出すための資金でしょ。約束したじゃないのぉ。だからつきあってあげていたのに!この、甲斐性ナシ!カネがなければただのジジイじゃん。もう、お別れね。ベンツとマンションは手切れ金としてもらっておくから!ほんと、やってらんねぇ~」

千絵はハンドバックから通帳の束と印鑑を取り出すと久礼江に投げつけ、唾を吐きながら部屋を出ていった。

「ああ、もうおしまいや…」

そう言うと久礼江は膝から崩れ落ちた。

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