- 2023/05/19 掲載
アングル:強まる物価高、日銀は緩和継続 米経済の不確実性に警戒感
[東京 19日 ロイター] - 2023年度の生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)はプラス3%台での滑り出しとなった。原材料コストの転嫁が主因だが、春闘での高い賃上げ率や労働市場の需給ひっ迫を織り込む形で、24年末まで2%以上の上昇率が続くとの予想も出てきた。しかし、物価が高止まりする場合でも、日銀は粘り強く金融緩和を続ける方針だ。米国経済など日本の経済・物価を巡る不確実性が大きく、賃金上昇の持続性も不透明なためだ。
<「欧米並み」の高インフレ到来>
4月のコアCPIは前年同月比プラス3.4%。生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI)はプラス4.1%上昇で、1981年9月以来の伸び率となった。季節調整済みでは前月比プラス0.5%となったが、これは年率6%程度の上昇率となり、「瞬間風速としては欧米並みのインフレ圧力」(エコノミスト)との声が上がっている。
生鮮食品を除く食料は9.0%上昇して1976年5月以来の伸び率。企業間取引におけるモノの価格を示し、消費者物価の「川上」に当たる企業物価指数は輸入物価の急低下を受けて伸び率が縮小。4月の速報値は前年同月比プラス5.8%と、昨年12月のプラス10.6%の約半分の伸び率となったが、企業にとって既往のコスト高の転嫁は「道半ば」で、価格転嫁は当面続くとみられている。
帝国データバンクの3月31日のリポートによると、4月単月の値上げは加工食品を中心に5106品目で、前年同月の1204品目の4倍超となった。5月以降も昨年を上回る水準の値上げが予定されており、5月は前年比3倍、6月には前年にほぼ並ぶ2390品目の値上げが予定されるという。
<コアCPI、24年末まで2%以上の予想>
植田日銀総裁はコアCPIの上昇率について「今年度の後半には2%を下回る」と強調してきた。4月の金融政策決定会合後の記者会見では、輸入物価上昇による価格転嫁の影響が減衰していくため、上昇率の縮小は「ある程度の確度で見えている」とまで述べた。
しかし、春闘の第5回回答集計では定期昇給込みの賃上げ率が3.67%と、30年ぶりの高い伸びになった。エコノミストの間では物価の先行きについて強気の見方が浮上している。
UBS証券はコアCPIについて、2024年末まで2%以上の状況が続くとみている。4月のコアCPIプラス3.4%に対し、4―6月期はプラス3.3%で推移すると予想。その後、7―9月期プラス2.7%、10―12月期プラス2.4%、24年1―3月期もプラス2.4%と、伸び率は縮小するものの、年度後半も2%割れは見込んでいない。
同証券の栗原剛次席エコノミストは「23年はエネルギーと食品を中心にディスインフレが続くとみているが、特にサービスなどそれ以外の品目が上昇するためディスインフレのペースは遅くなりそうだ」とみる。
24年度のコアCPIについては、4―6月期プラス2.2%、7―9月期プラス2.3%、10―12月期プラス2.0%と予測。2%を下回るのは25年1―3月期で、プラス1.8%と予想する。「24年以降は人手不足が本格化していき、引き続き23年ほどではないにしても賃金上昇が強くなるのではないか」(栗原氏)として、賃金上昇の持続とサービス価格への波及を予測に織り込む。
24年以降も実質国内総生産(GDP)が1%前後で緩やかに成長を続けるとみており、それに伴う「需給ギャップの改善もインフレを支える大きな要素となる」(同)と指摘。期待インフレも維持されるとみている。
<YCC修正予想、後ろ倒しの動きも>
市場では、7月展望リポートで日銀が23年度のコアCPI見通しを4月時点の前年度比プラス1.8%から引き上げるとの見方が強まっている。
しかし、日銀は当面、金融緩和を続ける可能性が高い。植田総裁は4月会合後の会見で、内外経済や金融市場を巡る不確実性は「きわめて高い」と強調。「引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクよりも、拙速な引き締めで2%を実現できなくなるリスクの方が大きく、基調的なインフレ率の上昇を待つことのコストは大きくない」と述べた。
日銀では、価格転嫁や賃上げ交渉は順調に進んできたが、米国の景気減速の程度によっては、来年度の物価や賃金を取り巻く状況は今年度と別の状況になっているのではないかとの警戒感が出ている。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は5月に入って、イールドカーブ・コントロール(YCC)終了のタイミングの見通しを今年6月会合から10―12月期に後ずれさせた。植田総裁が4月会合後の会見で「粘り強い金融緩和の継続」を強調したことで「その1―2カ月後にYCCを終了するとは考えづらくなった」としている。
7月展望リポートで23年度のコアCPI見通しが引き上げられ、24年度が4月展望リポートの2.0%から据え置きか引き上げられれば、コアCPIは22年度から24年度まで3年連続で2%を上回ることが現実味を帯びる。日銀では、表面的な数字に惑わされることなく、賃金上昇と物価上昇の背後にあるメカニズムを見極めていくことが重要だとの声も聞かれる。
(和田崇彦 編集:橋本浩)
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