- 2023/05/29 掲載
アングル:富豪2家独占のタイビール市場、政権交代で自由化なるか
醸造業から政治家に転じたタオピポップ氏は、厳格な規制の見直しに向けて長年奮闘しており、これまでずっと酒類製造部門を支配してきたブンロート・ブリュワリーとタイ・ビバレッジに戦いを挑んできた。
タオピポップ氏はリベラル派「前進党」のメンバーだ。同党は5月14日に行われた総選挙で最多議席を獲得し、次期政権の編成を進めている。前進党は22日、同じくリベラル派に属する連立与党との間で「アルコール飲料を含め、あらゆる産業で独占を排除し公正な競争を促進する」措置などで合意に達した。
前進党は第1党になったとはいえ、政権樹立の見通しはまだ不透明。軍関係の政党を優遇する規定が憲法に組み込まれているためだ。
バンコク選出のタオピポップ氏は、自身の経営するバーで行われたインタビューで「アルコール規制法改革は1つの法案に留まるものではなく、政治的なプロジェクトだ」と語った。
「現在、この政策に関係するすべての当事者を集め、なるべく円滑に実現できるよう努力しているところだ。私たちはもはや野党ではなく、私たちこそが政府だと自覚している」
ロイターではビールの「シンハー」や「レオ」を製造するブンロート、「チャーンビール」を製造するタイ・ビバレッジに質問を送ったが、今のところ回答はない。
米誌フォーブズによれば、タイ最古の醸造所であるブンロートは1933年の創業。国内15位の資産家であるビロンバクディ家が経営する非公開企業だ。一方のタイ・ビバレッジはチャルーン・シリワタナパクディ氏が設立した企業で、フォーブズによると資産は140億ドル相当、タイ第3位の富豪とされている。
調査会社BMIで消費者・小売業アナリストを務めるダミアン・ヨウ氏は、前進党主導の政権が誕生し酒類市場の開放が実現すれば、新規参入のライバルにより、この両社の業績に短期的な影響が出るかもしれないと語る。
ただしヨウ氏は「長期的にみれば2社の優位性は高く、新たなライバルがどれだけ出てきても、健全なリードを維持しやすいだろう」と分析。両社が市場や規制上の問題について他社より深く理解している点を指摘した。
<「過激な主張ではない」>
タイの酒類市場の規模は2020年時点で4730億バーツ(約1兆9010億円)。その半分以上を占めるのはビールだ。
クルンシィ・リサーチがまとめた2022年2月の報告書では、ブンロートはビール市場で57.9%のシェアを占め、これを追って、シンガポール証券取引所に上場するタイ・ビバレッジの34.3%、アジア・パシフィック・ブリュワリーの4.7%が続く。
またクルンシィ・リサーチによれば、蒸留酒市場においてもタイ・ビバレッジが59.5%と圧倒的なシェアを占める。2位企業のシェアは8%に過ぎず、水をあけられているという。
タオピポップ氏は、以前には国会での可決に至らなかったアルコール規制法改正案により、もっぱらブンロートやタイ・ビバレッジのような大企業に有利な条件となっている酒類市場で、高い参入障壁を撤廃したいと語った。
そうなれば、ビール市場における国内の小規模醸造メーカーのシェアが、10年以内に少なくとも10%伸びるだろうとタオピポップ氏は言う。
5月19日、前進党が選挙で勝利を収めた後、ブンロートのピティ・ビロンバクディ取締役はSNSへの投稿で「業界の自由化を支持する」と述べた。
同氏はフェイスブックのコメントに対する返信で「多少の影響はあるかもしれないが、競争相手がいるのが自由市場というものだ。事業計画の調整が必要になる」と書いている。
投票日前の5月12日に行われた業績発表で、タイ・ビバレッジの幹部は新規制を警戒していると語った。同社の株価は、昨年11月初め以来の安値で取引されている。
「各政党の方針を注視している」と、ウエイチャイ・タンタオブハス上級執行副社長は語った。「どう転んでも対応できるよう準備をするだけだ」
弁護士の資格を持ち、醸造業に身を投じる前は観光ガイドの経験もあるタオピポップ氏は、厳しい酒類広告規制の合理化や酒類の24時間販売許可に関する立法措置により、さらなる規制緩和も見据えていると話す。
「過激な主張ではない」とタオピポップ氏は言う。「私は美味しいビールを飲みたいだけだ」
(翻訳:エァクレーレン)
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