- 2023/05/30 掲載
アングル:漂流する中国株式市場、最後の望み個人投資家も敬遠
市場関係者は今年、巨額の余剰貯蓄が株式市場に流れ込むと予測していた。景気の回復ペースが増す一方で、不動産市場の霧が晴れず、投資先は株式しかないとの見立てだった。
ところが、海外からの資金流入は実現せず、警戒した個人投資家も株式市場に背を向け、債券や預金に殺到。株式市場は漂流している。
中国本土の株式市場は昨年10月から今年1月にかけて20%高騰したものの、足元では年初から1%下落。香港株式市場も年初来安値で取引されており、中国国債の利回りは低下している。値上がり確実とされていた市場が失速し、資金流出が続いている。
上海市に住む投資歴3年の30代のプログラマーは「かなり落胆している。損失を全て取り戻すまでもう株には投資しない」とし、会社でリストラされる恐れがあるので、月収の約半分を理財商品や貯蓄商品に投資していると語った。
「今は安全重視だ。元本を失いたくない」。他の個人投資家に話を聞いても、こうした考え方はある程度広がっているようだ。
中国証券監督管理委員会(証監会)の易会満主席によると、中国では個人投資家の取引が市場全体の約6割を占める。JPモルガンの推計によると、米国では25%未満だ。
個人投資家の株式離れは市場のデータにも表れている。リスク選好度の指標である信用取引残高は約1カ月ぶりの低水準。A株市場の取引高は3月初旬以来の水準に落ち込んでいる。
中国証券預託決済機構によると、証券会社の口座開設も2─3月は勢いがあったものの、4月は減少。投資信託の設定も減っている。
グロウ・インベストメント・グループのチーフエコノミスト、ホン・ハオ氏は「株式市場は中国の景気回復というテーマに不信感を抱いているようだ」と述べた。
<待つしかない>
投資家の熱狂が冷めた背景には、国内経済指標の悪化、政治的緊張の高まり、世界経済の減速といった悪材料がある。
中国の4月の鉱工業生産と小売売上高は予想を下回り、銀行融資も予想外に急減。西側諸国は中国製造業への依存を減らす動きを加速している。
個人投資家は、こうした諸々の要因を挙げ、多額の資金を預金以外に振り向けるのは不安だと話す。中国人民銀行(中央銀行)のデータによると、新型コロナが猛威を振るっていた1年前よりも早いペースで預金が増加している。
ある個人投資家は「今年はテーマの循環が速すぎ、投資機会をつかむのがとても難しい。地合いが弱く、政策リスクや地政学リスクもあり、以前より用心している」と打ち明ける。
もっとも、悪い兆しばかりではない。一部では、市場が将来大きく反転し、国内投資家が戻ってくるとの見方も出ている。
BNPパリバ・アセット・マネジメント(香港)のシニア・インベストメント・ストラテジスト、チー・ロ氏は「一部の市場関係者の推計によると、余剰貯蓄の10%が資産市場への投資に充てられる可能性がある。これは8000億元前後に達する」と指摘。
UBSアセット・マネジメントのアジア太平洋マルチアセット・マネジメントを統括するヘイデン・ブリスコー氏も、こうした投資家が市場を押し上げると予想。最近、銀行以外の融資が増えており、経済にお金が回り始めた初期の明るい兆しだとの見方を示した。
ただ、そうはいっても、本格的な動きが始まっているわけではない。国有企業株が好調という明るい話題も、投資家のリスク選好が高まったというより、債券投資のような配当狙いの側面が強い。ミニバブル気味のAI(人工知能)関連株を除いては、魅力的なリターンは見つからない。
上海在住の40代の男性は「株式投資で約90%の損が出ている」とし、以前は初日の高騰を期待して熱心にIPO(新規株式公開)に応募していたが、今は「損失を解消するまで待つしかない」と語った。
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