- 2023/10/04 掲載
ローカル鉄道に「商品価値」=デザイナー・水戸岡鋭治氏に聞く
深刻な赤字運行に陥るローカル鉄道の存廃が全国的な課題となっている。JR各社と沿線自治体が解決策を探り出せるかが焦点だが、豪華寝台列車「ななつ星in九州」などJR九州を中心に数々の車両を手がけた鉄道デザインの第一人者、水戸岡鋭治氏(76)に議論の在り方を聞いた。
―ローカル線をめぐる議論をどう見ている。
世の中にはもうからなくても必要なものはたくさんある。利便性や経済性だけで、沿線の文化も歴史も全てを切り捨てることの意味が理解されていないようだ。鉄道は本来こうあるべきだという中期、長期の考えに立たない限り答えは出ない。
―中長期の考えとは。
世界中が環境問題を考えれば、結果的に「大鉄道時代」が来る。最も環境を壊さず、今ある路線を使い、安全安心で多くの人を最低限のエネルギーで正確に運べる。こんな便利な道具はない。楽しい旅をつくるには、車や飛行機、船、バスより圧倒的に鉄道が豊かだ。家族で対話できる時間と空間、サービス、景色があり商品価値は最高だ。
―ローカル線の価値は何か。
日本で最初に鉄道を走らせた線区は、景色が一番美しく安全な場所を切り開いてつくられた。その意味でローカル線は日本の原風景を走っていて、これから本当に商品価値が上がる。電車と線路、駅を整理整頓すれば、必ず国内外から旅をする人が来てくれる。特に北海道はそうだ。そのためには残った路線を維持しておかないとだめだ。
―線路所有と運行を分ける「上下分離」などが選択肢とされている。
間違っているとは思わないが、それだけでは限界がある。ローカル線は赤字なので、少々のことでは解決にはならない。沿線にファンが増えてメジャーにならない限り残らない。まずはヒット商品を出すしかない。
―どうすればいい。
一番良い方法は車両だ。コストをかけて理想の車両を造れば、1両走るだけで沿線が見事に変わる。徐々に地元の人が乗ってくれて駅も直そうとなり、次はホーム、駅前広場となり街になっていく。いきなり解決することはない。
―採算性の課題は。
誰もやっていないことをやろうとすると鉄道会社は採算が合わないと言うが、非常識を常識化した時にヒット商品になる。それをJR九州で繰り返してきた。ななつ星は旅程の半分の時間しか走っていないが、乗客は誰も文句を言わない。ゆっくり走ることにも価値がある。ただ、いくら理屈があっても人は五感で感じないと信用しない。とにかく造って「見える化」するしかない。
【時事通信社】 〔写真説明〕インタビューに応じるデザイナーの水戸岡鋭治氏=9月20日午後、東京都板橋区
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