- 2023/10/27 掲載
焦点:ECBは大幅な政策修正シグナル発信せず、市場に安心感
[26日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)は26日の理事会で、大幅な政策修正のシグナルを一切発信せず、市場に安心感が広がった。ECBの出方次第では、既に中東情勢緊迫化や米国債利回り上昇などに直面していた投資家を一段と動揺させる恐れがあった。
主要政策金利は11会合ぶりに据え置きが決まった。そしてより重要なのは、1兆7000億ユーロ規模のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の下で保有債券の償還資金を再投資する枠組みについて、いかなる変更も議論しなかった点だ。
再投資の枠組みは、財政基盤がより脆弱なイタリアなどにECBが重点的に資金を振り向ける裁量権を持っていることが特徴。最近数週間は財政赤字懸念などからイタリア国債の利回りに上昇圧力が高まっていたにもかかわらず、何人かの政策担当者が再投資を前倒しで打ち切る可能性に言及していた。
しかしECBは今回、予定通り来年末まで再投資を継続すると表明。ラガルド総裁は、この問題は議題に上らなかったと述べた。
またECBは、民間金融機関がECBに預ける最低準備金への付利金利をもっと下げることも話し合わなかったとしている。ロイターは以前、一部の政策担当者が来年春に向けて再引き下げを検討していると報じていた。
ダンスケ・バンクのチーフアナリスト、ピエト・クリスチャンセン氏は「ラガルド氏は自身に課していた1つの使命を果たした。市場に波風が立つのを望まず、その通りに振る舞った」と指摘した。
これを受けイタリア国債を中心に、ユーロ圏の各国債は軒並み利回りが低下。イタリア国債のドイツ国債との利回り格差も、9月に突破した200ベーシスポイント(bp)を割り込んだ。この日朝方売り込まれたユーロ圏の銀行株は、ECB理事会終了後に下げ幅のほとんどを取り戻した。
ラガルド氏は、今月7日以降のイスラエルとイスラム組織ハマスの交戦が経済や市場にもたらす影響にはほとんど触れなかった。
交戦がエスカレートすれば世界のエネルギー供給が脅かされかねない。特にユーロ圏はエネルギーの輸入依存度が非常に大きく、地政学リスクに対する脆弱性が相対的に高いとされる。そうした中で今回、ECBが原油価格に関してタカ派的なメッセージを発すれば、追加利上げ観測が高まってもおかしくなかった。
<利上げ打ち止め観測裏付け>
実際にはECBは物価上昇率の鈍化が続いていると強調。前回9月で利上げは打ち止めになったという投資家の確信を裏付ける形になった。足元の市場は、追加利上げ確率を10%弱しか織り込んでいない。
アルゲブリス・インベストメンツのファンドマネジャー、ガブリエレ・フォア氏は「ECBは全体的にかなりハト派的だったと思う。インフレへの心配は和らぎ、経済成長への懸念を強め始めている」と話した。
ラガルド氏は利下げの議論は時期尚早だとけん制したものの、市場は来年中の利下げがあるとの見方を変えていない。
もっともこの先のECBの政策運営には不確定要素がある。まず複数の関係者はロイターに、PEPP再投資の打ち切りを巡る議論は単に数カ月先送りされたに過ぎないと明かした。
またインフレ再燃の恐れがなくなったわけではない。クイルター・インベスターズのマーカス・ブルックス最高投資責任者は「物価高止まりにつながるリスクはまだ幾つかある。賃金の伸び加速やエネルギー価格を押し上げている中東情勢の不透明感などだ」と主張した。
原油価格は直近の高値から下がったとはいえ、イスラエルとハマスの交戦前よりはまだ5%も高いし、欧州の天然ガス価格は、交戦が始まった時点から30%余り上がっている。
ピクテ・アセット・マネジメントのシニアエコノミスト、サブリナ・カニヒェ氏は、エネルギー価格上昇の流れが続くようなら、追加利上げ余地がはっきりと残る可能性があるとみている。
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