- 2025/07/04 掲載
焦点:英で「トラスショック」以来の財政不安、ポンドと国債の前途に暗雲
[3日 ロイター] - 英国ではスターマー政権が一度打ち出した幾つかの政策を撤回したため、財政計画に穴が開き、ポンド/ドルの上昇や英国債の安定した値動きに終止符が打たれつつある。市場関係者の見立てでは、ポンドと英国債は今後さらに下落しそうだ。
2日にはリーブス財務相の辞任観測が浮上して財政政策の先行き不透明感がさらに強まった。これを受けて英国債は、4月にトランプ米大統領が「相互関税」を発表した局面以来の大規模な売りを浴びた。
こうした状況からは、対ドルで一時3年半ぶりの高値に達したポンドの好調局面が過去のものとなった気配がうかがえる。
2日の英国債売りに関しては2022年の「トラスショック」を想起させた。これは短命政権に終わった当時のトラス首相が財源の裏付けを示さずに積極財政に動いたことに伴う危機で、財政を巡る不安に弱い英国債の姿を浮き彫りにした。
マネックス・ヨーロッパのマクロ調査責任者を務めるニック・リーズ氏は「今月更新した当社の全ての予想において最も劇的に手を加えたのがポンドの見通しだ」と語り、ポンド/ドルは足元の1.37ドル前後から半年後に1.33ドルまで下落すると見込んでいる。
リーズ氏は「この修正の根拠となるのは、英財政見通しに関する根本的な変化だ」と述べた。
ポンドは今年に入って対ドルで約9%上昇してきた。トランプ政権が手がける政策の不確実性の高まりを嫌った投資家が、米国資産から資金を分散しようとしたためだ。
ただポンドは対ユーロで約4%、対スイスフランで5%下落しており、英国の成長鈍化と、総選挙で大勝して発足してから1年が経過したスターマー政権の財政運営に対する不透明感が根強いことも分かる。
RBCブルーベイ・アセットマネジメントのマーク・ダウディング最高投資責任者は「最終的にスターマー首相は秋の予算演説で増税の発表に追い込まれるかもしれない」と述べた。
マネックスのリーズ氏は、向こう12カ月でポンドはユーロに対して10%近く下がるだろうとの見通しを示した。ユーロ/ポンドは直近で0.8635ペンス付近で取引されている。
英国財政の見通しが悪化したのは、スターマー氏が与党労働党議員と、世論調査で支持率トップに立つ右派ポピュリスト政党「リフォームUK」の圧力を受け、福祉支出削減の一部を緩和する形で譲歩したことが原因だった。
シンクタンクの試算に基づくと、これによって長期の疾病・障害を対象とした給付金の削減額はおよそ30億ポンド(41億ドル)縮小する。一部の年金生活者向けに冬季のエネルギー補助金を復活させるには、約15億ポンドの費用が新たに発生する。
リーブス氏は3月、自身が導入した財政規律ルールを守るための財政余力は100億ポンド弱だと発言しており、エコノミストの間ではルール維持には追加的な増税が必要ではないかとの声が出ている。
今回の英国債売りは、利回り上昇を通じて政府に財政規律確保をより強く迫る構図だ。
30年債利回りは足元で5.34%と、2日のピークに比べてやや低下したものの、高止まりで推移している。
<オプション市場の変化>
これまでポンドは、幅広い通貨に対するドル安の恩恵を受けていたが、外国為替オプション取引は投資家心理の変化を示唆している。
コール(買う権利)とプット(売る権利)を組み合わせた取引戦略の1つである「リスクリバーサル」を見ると、指標の1カ月物ポンド/ドルは、トランプ氏が相互関税を発表した4月2日以降にポンドのコール保有にプレミアムが乗っていたが、7月2日には急激に反転してマイナスになったもようだ。
ロイズのFXストラテジスト、ニック・ケネディ氏は、今後数カ月でポンドは対ユーロで0.8740―0.8760ポンドまで下落する公算が大きいと予想。0.9000ペンスまでポンド安が進めば、英国経済に対し外的・内的圧力を和らげる余地を生む可能性があると付け加えた。通貨が弱ければ、輸出企業は競争上の優位を得られるからだ。
ケネディ氏は、ドイツと英国はいずれも政府借り入れを増やしつつあるとはいえ、ドイツが成長拡大を目指しているのに対して、英国は成長を生み出すのに苦労しているという差があると指摘。英国がこの問題に見て見ぬふりをせず具体的な解決のための議論が始まるまでは、ユーロがポンドに対して一層優位に立つという見方に合理性があるとの見方を示した。
マネックスのリーズ氏は「トラスショック」以降で、英財政への懸念がこれほど高まるのを見たことがないと指摘。「トレーダーの頭の中では今後、ポンドの下落圧力が高まっている構図が浮かび上がってくるだろう」と強調した。
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