- 2025/07/07 掲載
マクロスコープ:企業の中期計画公表、延期急増 トランプ関税で戦略立案難しく
[東京 7日 ロイター] - 第2次トランプ政権の発足以降、会社の事業方針を示した「中期経営計画」の策定を見送る国内企業が急増している。2025年4月―6月に中計を公表した上場企業は、前年同期に比べて約3割減少した。追加関税政策のほか、米国によるイラン攻撃など中東情勢も予断を許さず、先行きを慎重に見極めたいと考える経営者の姿勢が鮮明となった。日米関税交渉が長引けば、企業の戦略立案に悪影響がさらに広がりそうだ。
ロイターが大和総研に依頼して集計したところ、4月ー6月に新たな中計を公表した企業数は286社と、前年同期から124社減った。3月期企業は5月の本決算時にあわせて中計を発表することが多いが、今年はトランプ政権が4月に各国一律10%の関税を発動。自動車や鉄鋼に対しては25%の追加関税(鉄鋼はのちに50%)を課すなど、企業を取り巻く環境が急変した。
大和総研の五十嵐陽一主任コンサルタントは「日米間の関税交渉の行方も読めず、収益の見通しが立ちにくい中、計画の策定を中止・延期する企業が相次いでいる」と指摘する。
5月に中計の公表延期を発表した音響機器メーカーのティアックは、理由について「中国に生産子会社を置き、米国を重要な販売先としており、(米関税措置が)将来の事業展開に影響を及ぼすことが想定されるため」と説明。抜本的に事業戦略を見直し、26年5月をめどに次期中計を開示する予定だという。
中計は有価証券報告書や決算短信のように義務づけられたものではないが、近年、策定する企業は増加傾向にあった。背景には、東京証券取引所が上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を要請したことが挙げられる。
中計を活用して、資本効率改善に向けた取り組みなどを発信する動きが活発化。「大企業だけでなく、中堅企業も策定に乗り出した」(五十嵐氏)ことで、24年は前年比約4割増の693社と過去最多を更新し、今年はさらなる増加が見込まれていた。
<資本市場との対話ツール>
米国をはじめとする海外企業では、短期的な業績目標を重視する傾向が強く、3ー5年後の経営計画を定量的かつ包括的にまとめることは主流ではない。日本で中計が定着した事情の裏には、年功序列や終身雇用といった長期目線の企業慣習との相性の良さも関係している。
国内での嚆矢(こうし)は松下電器産業(現パナソニックホールディングス)といわれ、創業者の松下幸之助氏が1956年の経営方針説明会で「5カ年計画」を発表。220億円だった年商を60年に800億円まで増やす目標を打ち出した。
その後、中計は不良債権問題や企業倒産が深刻化した90年代から2000年代前半にかけて普及した。日本は欧米に比べて証券アナリストの数が少ないことから、企業が自ら経営計画の妥当性を詳しく解説する必要があったといい、1999年に日産自動車が公表した再建策「リバイバルプラン」は代表例の一つだ。
最近では、配当の増額や自社株買いを声高に要望する物言う株主(アクティビスト)が台頭し、企業は成長戦略についてより丁寧な説明が求められるようになった。また、経済産業省の指針を機に「同意なき買収」のリスクが拡大する中、防衛手段として高い時価総額を保つためにも、資本市場との「対話ツール」である中計の重要性は増している。日米関税交渉が一段落すれば、中計公表の動きは再び勢いづくとの見方が多い。
計画の策定支援を手がけるPwCアドバイザリーの大屋直洋パートナーは「(投資家からの評価を得るために)事業ポートフォリオの再編を盛り込むなど中計の内容が高度化しており、今後は目標達成に向けた実行力が問われる段階に入るだろう」と話した。
(小川悠介 編集:橋本浩)
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