- 2025/07/07 掲載
焦点:増産に舵切った日本のコメ政策、価格の落ち着きどころが成否左右
[東京 7日 ロイター] - 日本政府は、半世紀以上続いたコメの生産を抑制し価格を維持する政策を大転換し、増産に舵を切った。昨年来のコメ不足による価格高騰で輸入米が急増し、トランプ米政権からもコメ市場の開放を迫られる中で、新たな政策の促進が一段と緊急性を帯びている。政府は、コメ農家への所得補償などを含めた詳細について検討を進める予定だが、増産計画はコメ価格の急落にもつながりかねないとして懸念の声が根強い。
<コメ政策の転換、「セーフティネットを」>
日本では、2018年にコメの生産量を直接的に減らす減反政策が廃止された後も、生産過剰による価格下落を防ぐため、主食用米から飼料用米や麦、大豆などに転作した農家に国が補助金を支給して生産調整する事実上の減反政策がとられてきた。
この政策は、農林水産省がコメの生産量を見誤り、昨年夏に深刻な供給不足を招いたことで裏目に出た。コメは品薄となり価格が高騰、消費者の不満が強まったことを受け、政府は今年3月に備蓄米の放出を始めた。7月後半に実施される参院選を意識した選挙対策との見方がある一方、政府はコメの価格高騰を抑えて国産米離れを防ぐために必要な措置と説明してきた。
政府はまた、今年発表された新たな農業政策の下で、食料安全保障の確保に向けコメ増産の方針を打ち出し、2027年度から水田政策を根本的に見直す方針を示した。先月にコメの安定供給などについて関係閣僚会議を開始し、来年半ばまでに一定のとりまとめを目指している。
新潟県でコメを栽培する保坂一八さんは、コメを増産して輸出を拡大する政府の方針を基本的に歓迎している。ただ、まだ詳細が不透明なため疑問や不安が残っており「政府には、生産者が安心して生産できる何らかのセーフティーネットをしっかりと構築してもらいたい」と語る。
「飼料用米や加工用米などを主食米に切り替えることはすぐできるし、実際にわれわれも今年やっている。ただ、新たに田んぼを開田したり、麦、大豆からの切り替えや面積を増やすには、労働力や新たな機械などに投資をしなければいけない」と話す。
保坂さんの経営する「グリーンファーム清里」の農場では、約180ヘクタールの作付面積のうち昨年は30ヘクタールを飼料用米としていた。今年は価格上昇などを考慮し、20ヘクタール分を主食用米に切り替えた。
コメの小売価格が5キロ当たり4000円以上と昨年から倍増し、国家的危機となる中、政府が随意契約で放出した安価な備蓄米を求め消費者が長い列をなしていることについて「複雑ですよね」と心情を明かした。
「生産者、消費者がお互い、この辺だよな、という価格で落ち着いてくれる、また政府がそういった価格で落ち着かせる状況が大事だと思っている」と述べた。
保坂さんは、コメの小売価格が3000円から3500円程度で安定することが望ましいと語る。石破茂首相も「3000円台でなければならない」と発言しており、有権者を納得させられる水準との認識をにじませている。農水省によると、スーパーでの平均販売価格は6週連続で下落し、6月23日の週は3672円となった。
<コメの輸出拡大>
政府は、コメの輸出量を2030年に35万トンと、昨年の約8倍の量まで拡大する目標を掲げている。輸出用にコメを増産することにより供給能力を確保し、国内で需給が逼迫した際には国内に振り分けることを念頭に置いている。ただ、専門家は、価格競争力が低い国産米の輸出拡大には課題があると指摘する。
「ニッチな市場戦略ならまだ高いコメでも大丈夫だろう」と宮城大学の大泉一貫・名誉教授は言う。ただ、本格的に輸出拡大となると「国際市場価格との競争になる。日本の農業の生産向上改革が必要」と指摘する。
実際、国内市場では国産米の価格が高止まりする中、海外産のコメの輸入が急増している。無関税で受け入れるミニマムアクセス(最低輸入量)の枠外のコメには1キロ当たり341円の関税がかかっているにもかかわらず、輸入が急増し、記録的水準に達した。
政府は農家に何らかの支援を行う見通しだが、農家が自ら集約化を図り、人工知能(AI)やその他のテクノロジーを駆使して生産コストを下げることも求められる。
一方、保坂さんは、肥料や農薬、燃料の価格が高騰し、生産コストが上昇していることにも触れ、コメが以前の価格に戻ることになれば生産者にとっては「苦しいですね」と話す。「備蓄米をかなり出しているのでじゃぶじゃぶ状態で、もっと(価格が)下がってしまうということを危惧しているし、心配している」と危機感を示した。
最新ニュースのおすすめコンテンツ
PR
PR
PR