- 2025/07/16 掲載
焦点:投資家が「防衛態勢」強める、FRB議長の辞任リスクに
[ニューヨーク 15日 ロイター] - トランプ米大統領が再び連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の辞任を求めたことで、投資家たちはインフレ上昇リスクに備えてポートフォリオ防衛に動き出した。FRBが利下げに前向きになれば、物価上昇に勢いが付き、債券保有に対する補償を債券購入者がより多く求めるようになる可能性があるためだ。
利下げに積極的な人物がFRB議長になれば、株式市場にとって短期的に好材料と悪材料が入り交じった状況となる可能性があるが、米ドルが下落し、米国債市場の価格変動が大きくなり、長期金利が上昇し、つまりは住宅ローンや社債の借り入れコストがもっと高くなるだろう。
トランプ氏は1月に政権復帰して以来、利下げしないとパウエル議長のFRBを繰り返し批判しており、FRBを自身の支配下に置こうとしているのではないかという懸念が広がっている。
JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)も15日、「中央銀行の独立性は神聖だ」と述べ、こうした状況が予期しない結果を招くと警告した。
FRBの独立性が損なわれると金融資産の値動きが激しくなる可能性があると指摘するアナリストたちもいる。最大のリスクの1つは、投資家が米国債を売却し、米国債市場で長期金利が短期金利よりも大きく上昇することだ。
ジャニー・キャピタル・マネジメントのチーフ債券ストラテジストのガイ・ルバス氏は「政治的に支配されたFRBが経済的影響にかかわらず経済成長を刺激するために利下げするだろうと市場が受け止めれば、長期的なインフレ期待が高まり、利回り曲線(イールドカーブ)がスティープ化する」と述べた。「その動きの大きさを正確に予測できないが、たぶん30年債利回りが数ベーシスポイント(bp)でなく数%単位で上昇する可能性がある」と語った。
FRBが先週公表した6月17―18日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録によると、7月29―30日の会合で利下げを支持する意見はほとんどなく、多くの政策立案者たちがトランプ氏の輸入関税がもたらす可能性があるインフレリスクについて懸念していた。
トランプ氏はそれでもパウエル氏の辞任が「実現すれば素晴らしいことだ」と述べている。米大統領は金融政策を巡る意見の相違を理由にFRB議長を解任できないが、トランプ政権は今月に入ってからパウエル氏の辞任や利下げを何度も公に求めている。
トゥルイスト・アドバイザリー・サービスの債券部門マネージングディレクター、チップ・ヒューイ氏は「FRBの利下げペース加速を織り込んだこのシナリオだと、短期金利が低下する可能性があるが、長期金利はFRBに対する信認の低下を反映してインフレの上昇や長期化、期間プレミアムの上昇といった新たな調整の動きが出るだろう」と述べた。
投資家は物価連動債市場で今後数年間の物価上昇圧力が高まるとの見方を織り込んでいる。米5年物インフレ連動国債(TIPS)のブレークイーブン・インフレ率(BEI)は14日遅くに2.4766%と3カ月ぶりの高水準に達した。
パウエル氏に対する批判が激しくなる中で、ホワイトハウスはワシントンにあるFRB本部の改修費の予算超過について調査を開始している。
市場関係者の間でこの調査について、トランプ政権がおそらくパウエル氏を解任する唯一の法的手段となる正当な理由と位置付け、パウエル氏を解任するリスクがあるのではないかという懸念が高まっている。投資家は米国の巨額の財政赤字とパウエル氏のFRB退任リスクを心配しており、米30年債利回りは15日、5月下旬以来初めて5%を超えた。
FRBの報道官はパウエル氏のこれまでの発言を指摘した。トランプ氏が1期目に任命したパウエル氏は2026年5月15日の任期満了まで辞任する意向はないと繰り返し述べている。パウエル氏のFRB理事としての任期は28年1月31日まで続く。
ホワイトハウスはロイターのコメント要請にすぐに回答しなかった。
レイモンド・ジェームズ・インベストメント・マネジメントの市場戦略責任者マット・オートン氏は「リスクはまだ比較的小さいが1―2週間前よりは高まっていると思う」と述べた。それでも米国債から金や高品質のバリュー株とグロース株へ投資先を分散させるのが望ましいとした。「米国債に投資するリスクとリターンの魅力は、今のところ私にとって存在しない」と語った。
<後任探し>
パウエル氏が解任されたり辞任したりする可能性は低いとみられているが、アナリストたちはトランプ氏が早期にFRB議長職に誰か後任者を指名し、「影のFRB議長」として金融政策に影響を与える可能性もあると考えている。
ベセント米財務長官は今月初め、トランプ政権が今秋に向けてパウエル氏の後任探しに注力していると述べた。
市場参加者はFRBの独立性が損なわれるリスクが低いとみているが、こうした可能性をますますポートフォリオに織り込んでいる投資家が多い。
JPモルガン・チェースのダイモンCEOは15日の決算説明会で「FRBの独立性は極めて重要で、それは私が尊敬する現議長のパウエル氏だけでなく次の議長にとっても同様だ」と述べた。「FRBを政治的に操ろうとすれば反対の結果、つまり望んでいたことと正反対の結果を招く可能性がある」と付け加えた。
オールスプリングの債券部門チーフ・インベストメント・ストラテジストのジョージ・ボリー氏は、資産管理担当者たちが将来的な利下げと財政赤字の拡大を見込んで、イールドカーブのスティープ化に備えたポジションを取っていると述べた。「今後数カ月から数四半期にかけてイールドカーブがスティープ化するという戦略は経済的にも、テクニカル的にも、政治的にも理にかなっている」と語った。
投資家たちによれば、株式市場は利下げによって当初上昇する可能性はあるが、長期金利の上昇圧力が株価上昇の勢いに影を落とすだろうという。
クレセット・キャピタルの最高投資責任者ジャック・アブリン氏は米国株について「おそらく大丈夫だろうが、世界の投資家たちが米国から資金を移す傾向が加速し続ける可能性があると思う」と述べた。
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