- 2025/08/11 掲載
アングル:欧州の古い発電所、データセンター転換に活路模索
[パリ 5日 ロイター] - 老朽化が進む欧州の石炭火力発電所やガス火力発電所の一部が、「ハイテクな」未来像を描き始めている。マイクロソフトやアマゾンなどの大手テクノロジー企業が、電力や水へのアクセス整備済みのデータセンターとしての再利用を模索しているためだ。
エネルギー大手の仏エンジーや独RWE、伊電力大手エネルなどは、古い発電所をデータセンターに転換し、運営会社と有利な長期電力供給契約を締結することで、AIによるエネルギー需要の急増から利益を得ようとしている。
データセンターに転換すれば、老朽化した発電所の閉鎖にかかる莫大なコストを相殺できるだけでなく、将来の再生可能エネルギー開発の原資とすることも可能になる。
テクノロジー企業側にとっては、旧発電施設の再活用は、電力網の接続と水冷施設というAI産業における2つの大きなボトルネックを早期に解決できるメリットがある。
マイクロソフトのエネルギー担当副社長ボビー・ホリス氏は、「水道インフラや熱回収設備など、すべての要素がそろっている」と話す。
アマゾンの欧州・中東・アフリカ担当エネルギーディレクターのリンゼイ・マククエイド氏は、インフラの大部分がすでに整備済みの古い施設では、データセンターの許可取得がより迅速に進むと期待していると述べた。
同氏は、電力会社は土地をリースするか、自らデータセンターを建設・運営してテック企業と長期の電力契約を結ぶこともできると述べた。
RWEのグローバル・パートナーシップおよび取引責任者、サイモン・スタントン氏は、これらの取引は単に未使用の土地の売却だけではなく、安定した高収益の機会をもたらすと述べた。
「これは長期的な関係、時間をかけて築くビジネス関係であり、それによってインフラ投資のリスクを軽減し、保証できるようになる」とスタントン氏は語った。
石炭火力発電所の閉鎖を加速するための活動を行う民間団体「ビヨンド・フォッシル・フュエルズ」のデータによると、気候目標の達成のため、欧州連合(EU)と英国の石炭火力発電所および褐炭火力発電所153カ所の大半が2038年までに閉鎖される予定だ。05年以降、すでに190カ所の発電所が閉鎖されている。
<新たな収益源>
データセンターへの転換は、電力会社にとって魅力的な取引だ。将来の再生可能エネルギー開発を保証できるような長期的な電力供給契約も交渉で目指すことができる。
フランスのデータセンター運営会社OVHの環境プログラムディレクター、グレゴリー・ルブール氏によると、テック企業は低炭素電力に対して1メガワット時あたり最大20ユーロのプレミアムを支払っている。
データセンターの電力需要は数百メガワットから1ギガワット以上に及ぶ可能性がある。そのため、ロイターの試算によると、年間の「グリーンプレミアム」(低炭素電力に対する追加価格)を基本市場価格に上乗せすると、数億ユーロ、あるいは数十億ユーロ規模の長期契約につながる可能性がある。
業界関係者によると、長期的な選択肢の一つとして、「エネルギーパーク」を建設し、データセンターを新たな再生可能エネルギー開発に接続する方法がある。非常時には電力網を利用するものの、これは比較的新しい考え方だ。
エンジーは、再生可能エネルギーと蓄電池の設置容量を、現在の52.7ギガワットから2030年までにほぼ倍増させたい考えだ。同社のデータセンター事業を統括するセバスチャン・アルボラ氏によると、同社は世界各地で転換可能な石炭火力発電所やガス火力発電所など40カ所を特定し、データセンター開発業者に売り込んでいる。
その一つは、2017年に閉鎖されたオーストラリアのヘーゼルウッド石炭火力発電所だ。他の発電所については、ほとんどが欧州にあること以外の詳細を明かさなかった。
ポルトガルのEDP、フランス電力(EDF)、エネルなども、新しいデータセンター開発向けに古いガス・石炭火力発電所を売り込んでいると述べた。
「これはビジネスモデルの多角化だ」とコンサルティング会社アーサー・D・リトルのマネージングパートナー、マイケル・クルーズ氏は述べ、電力会社は新たなタイプのビジネスと新たな収入源を生み出していると話した。
<スピード・トゥ・パワー>
テック企業にとっての魅力は、スピードだ。
欧州では送電網に接続できるまでに10年以上かかる場合があるが、発電所を再利用すれば電力と水により迅速に接続できる可能性がある。
「実際に、より速く動けるチャンスがある」とマイクロソフトのホリス氏は語った。
シナジー・リサーチ・グループのデータによれば、欧州のデータセンターの容量は、送電網に接続するまで時間がかかり、許認可にも時間がかかるので、米国やアジアに比べて大幅に低い。
データセンター運営者は、必要な再生可能エネルギー電力を長期契約の形で電力会社から直接購入するか、電力市場から購入するかを選択できる。
不動産会社JLLは、ドイツの元石炭火力発電所を利用した2.5GW(ギガワット)のデータセンターや、大手テック企業向けの英国内4カ所の施設など、複数の転換プロジェクトに取り組んでいるという。
英発電会社ドラックスは、ヨークシャーにある古い石炭火力発電所の未使用部分(現在は一部バイオマス発電に転換済み)の開発パートナーを探している。同社の炭素プログラムディレクター、リチャード・グウィリアム氏によると、未使用の水冷設備へのアクセスも提供するという。
ドラックスは、発電所がデータセンターに直接電力を供給し、必要に応じて電力網から電力を引き込むことができる「ビハインド・ザ・メーター」契約を提供している。
EDFも、仏中部と東部のガス火力発電所2カ所の開発業者を選定した。
S&Pグローバル・コモディティ・インサイツの調査ディレクター、サム・ハンティントン氏は、テック企業は急成長する業界で市場シェアを争っており、より早く立ち上げられるプロジェクトにはより多くの資金を払う用意があると述べた。
「『スピードをパワーに』というフレーズを、しょっちゅう耳にするようになった」と、同氏は語った。
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