- 2025/10/25 掲載
アングル:解体される「ほぼ新品」の航空機、エンジン不足の思わぬ余波
[カステリョンデラプラナ(スペイン)22日 ロイター] - スペイン東部のカステリョン空港。作業員が、欧州航空機大手エアバスのほぼ新品の旅客機「A320neo」から次々と部品を取り外していた。機体のハッチを潜り抜けながら作業にあたるその様子は、まるで機械仕掛けのクジラを解体しているかのようだ。
利用客がほとんどなかったこの空港はいま、世界的なエンジンの供給不足のあおりを受けた航空機の墓場と化している。航空機の需要は急増しているが、燃費の良い次世代エンジンの深刻な不足で市場環境は一変した。時にはペア部品として取引されるエンジンの価格が、航空機本体の価格を上回ることもあるという。
業界関係者によると、この需給バランスの不均衡により、エアバスでは投入からわずか数年の機体十数機が部品用に解体され、さらに数十機が同じ運命を待っている。
<製造から6年目で解体>
こうした異例の傾向の背景には、米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)の「ギアード・ターボファン(GTF)」エンジンの製造と保守管理の遅延がある。取材時に解体されていたA320neoは、製造からまだ6年だった。同型機は、今月ボーイング「737」を抜いて最多納入機となったエアバス「A320」シリーズの一部でもある。
長年利用客不足に悩まされてきたカステリョン空港は様変わりした。英国を拠点とするeCube社が、ほぼ新品のジェット機から部品を外す基地として活用し、利幅の大きい新ビジネスの拠点になった。
「これほどの規模でこんなことが起きたことは記憶にない。人気の高いエンジンでこのような問題が発生したことはこれまでなかったからだ」と、同社のリー・マコーネローグ最高経営責任者(CEO)は話す。同社では、使用可能な部品を回収するほか、機体全体をリサイクルする場合もあるという。
空港では、熟練した作業員が航空電子機器や車輪、翼の部品を取り外していた。
エンジンを収めるケースは空っぽの殻のように翼の上に置かれ、その貴重な動力装置部分は青いカバーで包まれていた。スペア部品として最大2000万ドル(約30億円)の値が付くという。エンジンの修理待ちのために機体の地上待機を迫られている航空会社にとっては、すぐにでも入手したいパーツだからだ。
P&Wは2023年、GTFエンジンに使用している冶金用粉末が部品の亀裂につながる恐れがあることを明らかにし、26年までに同エンジン600-700基を検査すると表明した。これにより、エンジン不足が一段と深刻になった。
航空データ会社シリウムのデータによると、GTFエンジン搭載のエアバス機の3分の1にあたる636機が地上待機または保管中となっている。競合のCFMインターナショナル製のエンジン搭載機の場合、この割合は4%だった。
P&Wとエアバスは今のところコメントしていない。
<何が問題か>
ジェット機エンジンの供給ひっ迫により世界の航空会社で航空機の運航に支障が生じている。多くの航空会社では納入遅延によりジェット機が不足しており、古い機体の飛行期間を延長している。
一方で、場合によってはジェット機本体をリースするよりも、機体を解体してエンジンを取り外す方が利益を得られることもある。
例えばシリウムによると、エンジンはスペアパーツとして1基あたり月額約20万ドルで貸し出すことができる。これは少なくとも、飛行機1機分のリースと同等の価格だ。残りの機体を解体して売却することで得られる収益も加えれば、解体した方が利益が出る計算になる。
実際にエンジンを購入したウィリス・リースのオースティン・ウィリスCEOは、「航空機の需要がこれほどあるのに、なぜ解体するのか。大いなる矛盾だ」と話す。
「これはマネーの論理だ。ここ数年、航空機やエンジンの部品回収にプライベートエクイティ資本が数十億ドル規模の資金を投入している」とコンサルタント会社NAVEOのリチャード・ブラウン氏は指摘。
「航空業界が超効率的なマーケットになってしまった、ということだ」と、付け加えた。
航空会社の経営陣からは、20年以上飛行可能で、何百万ガロンもの燃料を節約するために製造された航空機が、なぜこれほど早期に解体されなければならないのか疑問視する声が出ている。
「何か深刻な問題があることを物語っている」と、国際航空運送協会(IATA)のウィリー・ウォルシュ会長は指摘する。同協会は先週、供給不足による損失額は今年110億ドルに上るとの予想を発表し、うちエンジンだけで26億ドルに上るとした。
危機の根源は、エンジンメーカーが現行モデルを設計していた時期に原油価格が1バレル140ドルを超え、メーカーが効率追求に過度に傾いたことにあるとの指摘も出ている。エンジン設計は、効率と耐久性の最適化を図る作業でもある。
「(エンジン会社の)動きは先取りし過ぎたもので、エンジン効率は大きく向上したが、メンテナンスが不十分だった」と、航空経済学者のアダム・ピラルスキ氏はロイターの取材に語った。
エンジン企業は、燃料効率の向上は航空会社に利益をもたらし、整備の遅延は一時的なものだと主張している。一方でP&Wは、ボトルネックの解消には何年もかかると認めた。
P&Wの親会社RTXのクリス・カリオCEOは先月、地上待機の機体数は減少するとの見通しを示しつつ、「明らかにまだやるべきことがある」と述べた。
現在一部で注目を集めているのが、破産申請を行った米スピリット航空が手放す機体の運命だ。
「スピリット航空の先行きが完全に決まったわけではないが、一部の機体は解体を免れない」と、eCubeのマコーネローグ氏は述べた。
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